北海道の自然草地における植生の草地生態学的研究 : I.十勝国河東郡上士幌町ナイタイ大規模草地
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概要
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筆者らは,北方型植生としての草地の特性を明らかにし,かつ北海道の自然草地における植生の実態を把握し,その草資源を有効に利用するため植生の生態学的研究に着手した。今回の報告は約30年前に自然草地として造成・利用され,現在大規模な集約草地として牧草導入が行なわれている北海道十勝国河東郡上土幌町字ナイタイの自然草地で1961年から1964年にかけて調査したものである。その結果について摘要するとつぎのごとくである。全面積: 3,077ha放牧利用面積: 1,104ha(A牧区)標高: 365〜998m放牧期間: 6〜11月下旬放牧利用家畜: 馬約150,育成牛約50頭1.全般的にはおおむね500m以下の低標高部はミヤコザサ,500m以上の高標高部はクマイザサの優占するササ型植生であったが,放牧採食によってススキ・エゾヤマハギなどの優占する長草型植生に移行したところが多い。2.採食地と未採食地では植生が異なり,前者においては可食草量が急減し,特にクマイザサのように採食される葉部が少ないために不可食草量が多く残り,全草量に対する可食草量の割合はきわめて少なくなっている。3.標高差・傾斜の方向および傾斜度によって植生が異なり,一般に南斜面は北斜面に比して出現草種数および頻度・被度ともに大きい。また標高が高く,強い風を受けるところでは草丈が短くなり,形状も矮小化してくる。草種もススキ・エゾヤマハギなどの長草型からオオバコ・ミツバツチグリ・スゲ類・タンポポなどの短草型に推移している。この自然草地においては長草型が450〜600mの標高に分布しているが,これは嘗って放牧利用の頻度の高い関係にもよるであろう。またこの標高のところでは一部ミヤコザサであったが,これが放牧によってササが採食され,代って長草型に移行したものである。600m以上の標高のところはクマイザサの優占するササ型である。4.いろいろな立地条件における16ヵ所のコドラート調査の結果は表-35のごとくである。5.植生と土壌間には密接な関係があり多くの植生の根茎は0〜10cmの層に多く,地上部植生の密度・被度とも関係があるが,クマイザサの根量がきわめて多い。7調査地点における平均草量は158g(10×100cm),平均根量は616gであって地下根部のほうが地上部の草量に比し約4倍量である。6.混牧林状態における植生はその樹冠率,利用の程度などによって異なり,この調査自然草地における立木数は10aあたり150本,平均樹冠率は51.8%であって樹種はミヅナラ・シラカバ・ハルニレ・ヤチダモなどが多い。しかして樹冠率の高いところは草量も少なく,82.8%のところではコドラート(1×1m)内33g,樹冠率の低い31.9%のところでは草量が多く376g,平均は51.8%であって平均草量は175gである。7.同一の地形における傾斜地では傾斜度と放牧の程度,樹冠率によって植生が異なり,ラインインターセプション法による調査では,傾斜の頂上部ではクマイザサが優占し,その密度・頻度ともに大であり,下部に下がるにしたがい草種も多くなり,スゲ類・ヨモギなどが多くなり,可食草量も多くなる。8.採食部位と立地条件の関係は家畜の生態,つまり寒暑・風・湿度などの環境紀対する動き,草に対する嗜好性・飲水の要求,立木の状態などによって左右される。一般に,南斜面の草のほうが北斜面のものよりも好嗜される。採食部における草量は未採食部のそれに比してもちろん草量は少ないが,根量においては大きな差はない。9.ササ型または長草型植生で放牧が行なわれている自然草での植生調査の場合,どれくらいの大きさのコドラートにするかが一つの問題であるが,少なくも50×50cm以上の大きさのものが望ましい。放牧採食によってササ型植生の生態が未採食地の場合に比してかなり異なってくる。これによって放牧採食園を作成したが,この自然草地では未放牧地面積が全体の25%,軽放牧地が13%,中庸放牧地が15%,強放牧地が15%,放牧地の計が43%を占めることとなった。10.植生の飼料成分も放牧採食と関係が深く,採食された残りの部分は未採食のものに比して蛋白質およびカロチン含量が少なく,逆に粗繊維含量が高くなる傾向を示す。このことは放牧採食された部分の飼料成分が高いことを示すものである。11.未放牧地と放牧地における植生の時期的消長については地位によっても異なり,また自然草地に火入れして障害物を除去し,施肥・播種を行なったが地区では構成草種が異なってくることは当然であるが,その牧草導入率はかなり大である。しかし,自然草種との競合もあり,適当な地表処理と放牧家畜による採食とかその蹄による覆土・鎮圧と同じ作用によってかなりの牧草導入効果を期待できる。長草型ではェゾヤマハギ・ススキの消長と関連がある。長草型におけるこれら両草種の消長は草量に大きな消長をもたらしている。12.シリクニ川沿いに優占するトリカブトを摘食した放牧育成中に中毒病を発生せしめ,牛群のうち11頭が罹病し,3頭が斃死するにいたった。以上のごとく,この自然草地はササ型から長草型に推移する過程にあるが,地位・放牧などによって植生間の生態学的変化がたえず起こり,風衝の強いところ,強度の放牧が行なわているところでは矮性化したササ類・スゲ類などの短草型の植生に移行することもある。これら植生の現況・推移を明らかにしておくことは自然草地の診断・利用などを評価する上にきわめて有意義なものと思われる。
- 1969-01-30
著者
-
大原 久友
帯広畜産大学
-
大原 久友
帯広畜産大学草地学研究室
-
福永 和男
帯広畜産大学草地学研究室
-
吉田 則人
帯広畜産大学草地学研究室
-
大原 洋一
帯広畜産大学草地利用学研究室
-
古谷 政道
帯広畜産大学草地学研究室
-
大原 洋一
帯広畜産大学草地学科草地利用学教室
-
大原 洋一
帯広畜産大学
-
古谷 政道
帯広畜大
-
福永 和男
帯広畜産大学草地学講座
-
吉田 則人
帯広畜産大
-
福永 和男
帯広畜産大
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