パプアニューギニアにおける野生ランの分布と生態に関する調査研究(農学科)
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概要
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短期間の, しかも種々の点で制約を受けるサブワークであったにもかかわらず, 数多くの野生ランを見ることができたが, これはとりもなおさず, PNGにおけるラン科植物がいかに豊富であるかということを示しているといえる。これら膨大な数の野生ランの分布や生態およびその植生環境を総括するにあたっては, 今回の調査のみでは資料不足であることは否めない。しかし, 主要な点はひととおり確認することができたので, ここではDendrobiumを中心にいくつかの項目について考察する。<分布の地域的特性>PNGは南緯2°から12°までの範囲に位置しているにもかかわらず, 多くの山岳地帯を有して地形は複雑であり, また季節風の影響を受けて気象的に多様性が見られる。高温多湿の低地は熱帯そのものであるが, 中央高原地帯のそれはむしろ温帯性気候である。降雨量およびその分布も地域によって全く異なり, LaeやSepikおよびPapua湾中央部のKikoriなどは4,000mm以上の降雨量を有するが, Port Moresbyを含むサバンナ地域は極端に少なく, またその分布も一時期に限られている。それぞれの地域の気象条件に対応して植生が明確に区分される^<7)>が, このことはラン科植物についても同様で, いくつかの分布の特異性が指摘できる。すなわち, 乾燥地域ではその植生環境に適応して, 肥大多肉化した葉と長大な茎をもつものが多く, これらは光合成に際してCAM性をもつものと考えられる。また, 開花に関しては落葉性をもち前年性の古い茎に花をつけるものが多い。これらの特質は, D. rigidum, D. torricellianum, D. discolor, D. williamsianum, D. bracteosum, D. capituliflorum, Bulbophyllum fletcherianumなどに見ることができる。なお, 低地湿潤地域を代表するD. lineale, D. lasianthera, D. smilliaeなども外観的には長大な茎を有するが, 葉がやゝ薄いことなどが乾燥地のものと異なる。Dendrobiumについては, Schlechterが鮮細に調査して41のsectionを設けたが^<8,9)>, このことに関しては, 一般に低地性で花の美しいDendrobiumは乾燥地のものを含めてCeratobiumが多い。D. williamsianum, D. bigibbumの属するPhalaenantheも分布地は主として乾燥低地である。LatoureaにはD. musciferum, D. macrophyllum, D. atro-violaseum, D. bifalce, D. engaeなどが属するが, これは低地乾燥地域から湿潤地および内陸高地まで広範囲に分布している。低地性のDendrobiumが比較的大型の草姿を有するのに対して, 高地性のものは一般に小型種が多い。とくに標高2,000mより上のNothofagusのmoss jungleに分布するものはおしなべて小型である。これらの地域のDendrobiumについて開花特性を列記すると, 花色が鮮明で豊富, 花形に変化が多い, 植物体に比して花が大きい, 周年開花が見られ花命がきわめて長い, などの注目すべき形質があげられる。これらは温度の日較差が大きく, 常に多湿でしかも気圧の低い高地における一つの適応型ともいえるが観賞園芸面で興味のある種類が多い。中でも, CuthberisoniaのD. sophronites, OxyglossumのD. oreocharis, D. uncinatum, D. pseudo-frigidum, D. petiolatum, pedilonum, のD. dichaeoides, CalyptrochilusのD. Iawesii, D. phloxなどは今後注目さられるべき原種である。なお, 内陸高地にはDendrobiumばかりでなく, Bulbophyllum, Phreatia, Cadetia, Thelasisなどにも小型種が多い。<種内変異>D. phloxは内陸高地に広範囲にわたって分布が見られるが, 花色, 花形および開花時における葉の着落などに変化の多いことが確認された。同様のことはD. Sophronites, D. uncinatum, D. pseud-ofrigidumなどの高地性DendrobiumおよびD. lineale, D. discolor, D. lasianthera, D. smilliaeなどの低地性Dendrobiumに多く見られた。その他, SpathoglottisやCoelogyneなどにも興味ある生態型が確認された。また, Bulbophyllumについてはとくに種の判別そのものが困難なものが多く, これらのことに関しては, より詳細な現地調査および分類上の整理が望まれる。<開花特性>標高の高低を問わず, 各地域に分布する野生ランを概観して注目されることの一つは, 開花株がきわめて多いことである。一般に, 熱帯においては温度, 湿度とも季節による変動が小さく, 日照時間も年間をとおしてほぼ同様である。これらの気象環境が四季咲性を促進する要因となっていると思われる。これはランに限らず, 多くの植物に見られる現象で, 隣接して植栽されているPoinsettiaが同時期にそれぞれ栄養生長および開花を示していたことなどは, その好例である。開花に関して, とくに高地性のDendrobiumで目だった他の点は, 花色が多彩で鮮明なこと, および小型の花を有するものが多いということであった。花形についてはD. pseudo-frigidumやD. uncinatumに見られるように, 花弁よりがく片が大きく
- 1981-11-30
著者
-
有隅 健一
鹿児島大学農学部
-
田中 孝幸
九州東海大学農学部
-
上里 健次
琉球大学農学部生物生産学科
-
有隅 健一
観賞園芸学研究室
-
坂田 祐介
鹿児島大学農学部
-
田川 日出夫
鹿児島大学教養部生物学教室
-
田川 日出夫
鹿児島大 教養
-
国本 忠正
大分県温泉熱利用農業研究所
-
田中 孝幸
九州大学農学部
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