ラン科植物の生長環における protocorm の形成と発育に関する研究(農学科)
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概要
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ラン科植物の種子発芽時に形成されるprotocormの発育の過程を形態学的および生理学的に検討し, 合わせて栄養器官ならびに組織からの個体発育の過程も同様に検討し, ラン科植物それぞれの生長環におけるprotocormの位置づけを試みた。実験材料にはCattleya類, Cymbidium, Dendrobium, PhalaenopsisおよびVandaをあて, 胚ならびに組織の培養には無菌培養の手法を適用して, 種々の外的および内的条件とを関連づけながら検討した。それらの結果をまとめると, およそ次のとおりである。1種子起原のprotocormは, 形態学ならびに生理学的に整理すると, 球体に向けての肥大発育が行なわれる分化程度の低い前半と, 高度に分化してすでに生長しつつある幼芽を伴う後半の両ステージに分けられる。Cattleya類など種類によっては, 後半のステージに入っても幼芽の発育が進まず, 肥大生長と増殖のみが続行して, 一見カルス様の異常形protocormとなるものが含まれるが, 基本培地のBrassolaeliocattleyaにおけるその形成割合は2.4%であった。2 Cattleya類ならびにCymbidiumの茎頂組織, およびPhalaenopsisの花梗側芽組織の培養において, いわゆるprotocorm like bodyの形成を認めた。これらを形態学的および生理学的に, 種子起原のprotocormと比較検討した結果, ほぼ同じものと判断し, 広義のprotocormとすることを提案した。3 Cattleya類の茎頂組織培養には時期的に組織の褐変現象が付随して見られ, 活着率低下の原因となっているが, 培地へのascorbic acid添加処理によってある程度改善されることを示した。4 Phalaenopsisの花梗側芽組織を培養する場合には, その側芽を再度伸長させ, そこで二次的に形成される開花前の若齢側芽組織を利用することによって, 活着率が向上することを示した。5 LaeliocattleyaおよびCymbidiumの無菌幼植物から茎節切片を採取して培養し, それらが幼植物に発育する過程の第一段階にprotocormのステージが存在することを確認した。6 Laeliocattleya, PhalaenopsisおよびVandaの葉組織を培養し, 芽の原基を有しないこれらの部位から個体発生が行なわれる際にも, protocormのステージを経ることを確認した。7 LaeliocattleyaおよびCymbidiumの無菌幼植物から採取した茎頂組織, および葉を有する幼苗先端部の培養においても, protocormの形成を確認した。8 根端組織の培養においては, Cymbidiumに限って不定形のカルス様の組織が形成されたが, 幼芽の形成には至らなかった。9 栄養器官に形成されるprotocormは, 一般に茎頂組織のように複数の芽原基が隣合って位置する場合には, 多数の幼芽を伴う球形態の不明瞭な形態を示すのに対し, 相互の位置間に隔たりがある茎節の側芽, または葉の原基を有しない葉組織などの場合には, 典型的な球形態を示すことを確認した。10 幼芽の伸長生長に好適な条件下ではprotocormは小さく, 速やかにシュートへ移行するのに対し, 液体培地のように幼芽の発育に不適な条件下では肥大の程度が大きく, かつprotocormのステージにとどまる期間の長いことを確認した。この傾向は正常位に対して逆位に置床されたprotocormの発育においても認められた。11 切断などの機械的処理に対するprotocormの再生力がきわめて強いことを示した。その場合, 皮層組織が重要な機能を有することを認めた。12 横断により2分割されたprotocormの幼芽を有する上頂部切片は, 一般のprotocormと同じく幼苗へ向けての発育を示すのに対して, 基部切片は多数のprotocormを同時に形成し, 一時的な増殖生長を示すことを確認した。13 protocormの発育に及ぼすauxinおよびcytokininの影響を見るため, NAA, 2,4-D, kinetinおよびBAを組合わせて実験し, およそ次のような傾向を確認した。一般にauxinによる伸長生長促進の効果は顕著であったが, その適域濃度範囲は狭く, NAAで5.0ppm, 2,4-Dで1.0ppmを越えると植物体の奇形化および枯死株の増加が見られた。cytokininの効果としては増殖効果が著しく, kinetinおよびBA間では後者の効果がやや強く認められた。またauxinとcytokininの併用による相乗効果は増殖に対して, とくに顕著であった。以上の結果をふまえて, ラン科植物におけるprotocormの意義, およびその生長環におけるprotocormの位置づけを次のようにまとめた。protocormはラン科植物に特異的な一つの生長環をもつ器官であって, protocormのステージには未分化の球形態を示すものから幼芽を伴うものまで含まれ, しかも種子起原の場合は勿論のこと, 栄養器官, 組織から形成される, いわゆるprotocorm like bodyも含めることができる。その中で, 種子発芽直後の未分化のステージを狭義のprotocormとし, その他栄養器官から形成されるものを含めて, 肥大を示すすべてのステージを広義のprotocormとすることができる。
- 琉球大学の論文
- 1978-12-01
著者
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