バラの花色に関する研究 : 特に遺伝生化学的分析とその育種に対する応用について V
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概要
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本実験は'Frensham'後代系統バラの花弁の発育・老化に伴う特異なシアニジン3-モノグルコシドの生成機作と, その遺伝について検討したもので, 得られた結果の概要は次のとおりであった.1.'Frensham'後代系統のうち65-6-2について花弁の発育に伴う蕾の直径の変化は, アントシアニン出現後の日数(x)と蕾の直径(y)との関係で見た場合, y=0.07x+0.85の式で示された.また発育に伴う乾物重の変化は, 蕾の直径(x)と乾物重(y)との関係で見た場合, 発育中期を境にしてそれぞれy=0.32x-0.25およびy=0.70x-0.73の式で示された.さらに開花後の花弁の乾物重の変化は認められなかった.2.アントシアニンの生成に関して, 特異なシアニジン3-モノグルコシドはシアニジン3 : 5-ジグルコシドの生成から3〜4日遅れて生成され, そのもっとも急速に生合成される時期も7〜8日遅れた.また両色素量が極大に達する時期は, 前者が開花のほぼ前日, 後者が3〜4日前であった.さらに両色素量は開花および老化するに従い減少した.これらは'Frensham'後代系バラにおけるグリコシレーションの様式が, 他の植物におけるそれとはまったく逆方向へ進行することを示した.3.'Frensham'型のシアニジン3-モノグルコシドの生成と品種'Masquerade'で代表される変色型のそれとは生合成の順序, つまり3 : 5-ジグルコシドの生成が先行する点では同じであったが, 3-モノグルコシド自体の生成開始時点は互に異なっていた.さらに変色型における3-モノグルコシドの生成は, 光によって決定的な影響を受けるのに対し, 'Frensham'後代系統のそれは暗黒下でも明区とほぼ同様の3-モノグルコシドを生成した.このように両者は本質的に異なっていた.4.この特異なシアニジン3-モノグルコシドの遺伝に関して, 'Frensham'型どおしの交雑から得られた実生は, その3-モノグルコシド指数は±から6に及んだ, また一方に3-モノグルコシド不在型を配した場合, 得られた実生は指数の低いものが多かったが, 同様に±から6に及んだ.これらの結果は他の植物におけるグリコシレーションの遺伝様式とは合わなかった.5.以上のように'Frensham'型における3-モノグルコシド生合成の機作は, 一般の3 : 5-ジグルコシドとも, また変色型における3-モノグルコシドともまったく異なっていた.このことは, これら3つの配糖体の生成に関与する遺伝子が遺伝的に互に対立関係にないことを示すものと解釈された.これらの結果にもとづき, バラにおけるグリコシレーションの様式はFig.8.に示すような3型があることを示すとともに, 他の植物とも対比してその意義を論じた.
- 鹿児島大学の論文
- 1977-03-19
著者
-
有隅 健一
観賞園芸学研究室
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坂田 祐介
鹿児島大学農学部
-
有隅 健一
Laboratory of Ornamental Horticulture and Floriculture
-
坂田 祐介
Laboratory of Floriculture and Ornamental Horticulture
-
青木 正隆
Laboratory of Floriculture and Ornamental Horticulture
-
河原 壮拓
(現)鹿児島県穎娃農業改良普及所
-
有隅 健一
Laboratory Of Floriculture
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