Aspergillus niger によるPolygalacturonase生産の動力学的解析
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概要
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Aspergillus niger U20-2-5 (アデニン要求株) はペクチン, ガラクツロン酸等を炭素源としてpolygalacturonaseを誘導生産する. まず予備的に培地組成の検討を行ったところ炭素源としては上記のペクチン関連物質が誘導物質として生産に必須であり, 窒素源としては有機のポリペプトンが有効であった. またグルコースをはじめとする各種糖類は polygalacturonase生産を抑制したが, TCAサイクル中間体等の有機酸は抑制せずむしろ促進作用を示した.次いで種々培養条件下における polygalacturonase生産のプロセス型の解析を行った. ペクチンを炭素源とする半合成培地におけるpolygalacturonase 生産は本菌のglucamylase, acid proteaseと同様典型的な増殖非連動型を示したがその生理的機構には著しい相違のあることが認められた. まず増殖相において酵素生産が殆んど認められないのは glucamylase, acid proteaseでは増殖に伴うrepression即ちanabolite repressionによったが, polygalacturonase生産においてはanabolite repressionは存在せずペクチン中に含まれるグルコース等によるcatabolite repressionによることが明らかにされた.従ってガラクツロン酸を炭素源とするようなcatabolite repression を受けない典型的な培養では増殖相においても顕著なpolygalacturonase生産が認められ, anabolite repression 係数を0とした我々の既報の増殖相でのモデル式によく適合した. 結局catabolite repressionを受けない条件下では, 増殖相においてはpolyghalacturonase生成系(mRNA)は増殖に正相関して合成されることが明らかにされた. またpolygalacturonase生産は非増殖相においても長時間持続し, 既報の非増殖相でのモデル式によく適合した. 非増殖相における生産持続の主要因はpolygalacturonase生成系の高度な安定性にあり, それはRNAの turn overを通して合成され, 0.10〜0.14hr^<-1>の低い崩壊速度定数で一分子的に崩壊することが示された.一方polygalacturonase生産性の高い天然培地では当然catabolite repressionを起こす多量の糖類が含まれるにも拘らず, 増殖相においても顕著な polygalacturonase生産が認められ増殖相のモデル式によく適合し, anabolite repression係数は0であった. この結果はcataboliteの抑制効果に打ち勝つような誘導能の高いinducerが存在することを強く示唆する. 以上のようにペクチンあるいはガラクツロン酸を炭素源とする半合成培地および天然培地における三種の培養経過には大きな相違が観察されたが, これらの相違は主に本培養系の特徴であるcatabolite repressionに起因し, catabolite repressionさえ受けない条件下ではいずれの培養系においてもpolygalacturonase生成系(mRNA)は増殖相では増殖に正相関して, また非増殖相ではRNAのturn overを通して合成され, いずれも0.10〜0.14hr^<-1> の低い崩壊速度定数で一分子的に崩壊するという極めて単純な生産型を示すと結論付けられた.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1974-08-25
著者
-
照井 堯造
大阪大学工学部発酵工学科
-
照井 堯造
大阪大学工学部 醗酵工学教室
-
新名 惇彦
大阪大学 工学部醗酵工学教室
-
照井 尭造
北里大
-
照井 堯造
阪大工学部
-
照井 尭造
大阪大学工学部 醗酵工学教室
-
照井 堯造
大阪大学 工学部 醗酵工学教室
-
江夏 敏郎
大阪大学 工学部 醗酵工学教室
-
田原 寅一
大阪大学 工学部 醗酵工学科
-
照井 堯造
大阪大学工学部醗酵工学科
-
江夏 敏郎
大阪大学工学部 醗酵工学教室
-
新名 惇彦
大阪大学 工学部 醗酵工学教室
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