タイロシンによるEscherichia coliの加熱処理細胞の増殖阻害 : 微生物の加熱損傷に対する薬剤併用効果(III)
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概要
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食品汚染微生物の抑制手段として加熱処理と薬剤添加の併用が考えられる. この効果に関する報告は多いが, その作用の機構についてはほとんど検討されていない. 著者らはすでにその一つのモデルとして, 防腐剤ソルビン酸の酵母に対する加熱併用効果の作用機構について報告したが, 今回は抗生物質タイロシンの E. coli に対する加熱併用効果について検討した. 37℃で培養中の初期対数増殖期の E. coli 細胞に比較的低濃度(5〜30μg/ml)のタイロシンを加え, 直ちに52℃, 5分加熱し, 再び37℃にもどしてその後の増殖経過を追跡した. タイロシンはグラム陰性細菌には作用しにくいことが知られているが, この処理により, タイロシンによる E. coli の増殖阻害は顕著に増加し, 10μg/ml の濃度では未加熱細胞に比べ, 加熱処理細胞の増殖阻害の程度は約5倍にも達した. タイロシンはまた細菌の蛋白合成を選択的に阻害することが認められているが, このような効果は他の蛋白合成阻害剤であるクロラムフェニコール, テトラサイクリン, ストレプトマイシンにはほとんど認められなかった. しかし, エリスロマイシンではタイロシンを同程度の加熱併用効果が観察された. このようなタイロシンの作用は, 加熱後その添加時期を遅らせると低下すること, タイロシン存在下に過熱処理した培養液を, 加熱後2時間後に新しい培地で希釈してもその後の増殖阻害作用は低下しないことなどから, この効果の要因として, 細胞膜の対薬剤不透過性の損傷が推定された. 加熱処理を受けた細胞内物質の漏出に示されるように膜損傷のため透過性の制御を失うが, その後の適当な条件下でこれを修復できるので, この過程中, 薬剤に対する不透過性がかなり修復された段階でタイロシンを加えてもその作用は小さく, またこの時期に希釈しても細胞内に多量に取りこまれたタイロシンはもはや細胞内から流出せず, 顕著な増殖阻害効果が認められたものと解釈できる. 事実, グラム陰性菌の細胞表層を破壊し, 膜透過性を増加させることが知られている EDTA で処理した細胞でも, 加熱処理細胞と同様なタイロシンによる増殖阻害効果の増大が観察され, さらにこのことは3^H-タイロシンを用いた実験で, 52℃で加熱中にタイロシンが細胞内にとりこまれたことによって支持された. 以上の結果から, E. cole の増殖阻害におけるタイロシンの加熱併用効果は, 加熱によって細胞膜中のタイロシンに対する透過障壁が破壊されて多量の薬剤が細胞内にとりこまれ, 細胞の加熱損傷の修復後の増殖時に蛋白合成の阻害が増大することによるものと推察された.
- 1975-06-25
著者
-
芝崎 勲
阪大工
-
土戸 哲明
関西大・工・生物工
-
小沢 修
大阪大学 工学部 醗酵工学科:(現)日新製糖株式会社
-
土戸 哲明
大阪大学 工学部 醗酵工学科
-
芝崎 勲
大阪大学 工学部 醗酵工学科
-
土戸 哲明
大阪大学 工
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