ドブネズミにおける数種の疾病の病原体及び抗体の検索

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名古屋市16区全域で,1986年4月から1988年3月までの2年間に捕獲されたドブネズミ251匹を対象に,人畜共通伝染病を主とした数種の疾病の病原体の分離と抗体の分布状況を調べ,以下の成績を得た。1.カンピロバクターについては19.5% (49/251)の糞便から分離されたが、その約2/3はCampylobacter jejuniであった。ネズミの体重200g以上の群の保菌率は31.3%で,それ以下の群のそれより有意に高率であった。抗体の保有率は8.5% (19/223)であったが、保菌率との間で特に相関関係はみられなかった。2.エルシニアの保菌率は8.4% (21/251)と比較的低率であった。21匹中13匹からはYersinia enterocoliticaが分離されたが、この中で3匹からの株はヒトに病原性のある血清型0:3に属した。また,Y. pseudotuberculosisが3匹から分離され、2匹由来株の血詩型は1b型,他の1匹由来株はヒトに病原性の強い4b型であった。ネズミから4b型が分離されたのは、今回が初めてである。3.レプトスピラの分離を141匹の腎臓について試みたが全例陰性であった。抗体調査をわが国に分布する主要な5種の血液型について行ったところ、何れかの抗原に反応するものが235例中18例,7.7%に確認された。血清型ではLeptospira hebdomadisに属するものが多く,逆にL. icterohaemorrhagiaeに属するものはなかった。4.ロタウイルスは,105匹の糞便から分離を試みたが,全例陰性であった。一方,ウシ由来Lincoln株を用いた免疫粘着赤血球凝集試験により217例の血清を調べたが,陽性個体は2例,0.9%に過ぎなかった。5.オウム病クラミジアの抗体を223例について調べたところ,うち24例,10.8%に陽性例が確認された。陽性率は体重200g以上のネズミで有意に高率で,17.7%を占めた。6.トキソプラズマについては235例調べ,うち27例11.5%が抗体陽性であった。しかし,64倍以上の高力価を示す個体は僅か3例,1.3%であった。7.広東住血線虫は,157例中4例(2.5%)の肺から検出されたが,陽性例4例は何れも名東区で捕獲されたもので,同区だけに限ると検出率は16% (4 /25)と高率であった。さらに同区でも,Y町とI町に限局されており,局地的に本線虫の濃厚汚染のあることが示唆された。なお,同区内で,本線虫の中間宿主となるナメクジやマメタニシについて,その第3期仔虫の検出を行ったが,確認できなかった。以上の結果から,名古屋市のドブネズミの間に人畜共通伝染病が低率ながら浸淫していることが明らかとなった。都市地域においてドブネズミが増加の傾向にあること及びこれらの生息環境がヒトや愛玩動物等のそれと密接な関連のあることなどから,これら疾病の防疫上,ドブネズミの駆除は重要な課題であることがわかった。
岐阜大学の論文
1988-12-25

ドブネズミにおける数種の疾病の病原体及び抗体の検索

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