ミズキ属植物の葉に含まれるフラボノイド配糖体 : III. 3種のヒマラヤ産ミズキ属植物のフラボノイド
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概要
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フラボノイド化合物を指標としたミズキ属植物の化学分類学的研究の一環として,ヒマラヤ地域に自生するヒマラヤヤマボウシ(Cornus capitata), C. oblongaおよびC. macrophyllaの葉に含まれるフラボノイドが分離同定された。ヒマラヤヤマボウシからは遊離のquercetin (1), quercetin 3-O-glucoside (2), qurecetin 3-O-galactoside (3), quercetin 3-O-xylosylgalactoside (5),アシル化されたquercetin 3-O-rhamnoside (6), kaempferol 3-O-rhamnoside (9), kaempferol 3-O-xylosylgalactoside (10)およびアシル化されたkaempferol 3-O-glucoside (11)が, C. oblongaからはquercetin 3-O-diglucoside (4), kaempferol 3-O-glucoside (7), kaempferol 3-O-galactoside (8), (2)および(3)が,またC. macrophyllaからはquercetin 3-O-rhamnosideと(3)が検出された。C. macrophyllaは形態的には研究者によってC. brachypodaと同一種とみなされたり,別種とみなされたりしているが,本研究で得られた両者のフラボノイド組成は極めて類似している一方で,前種には主要成分として出現する非フラボノイドのフェノール性化合物とみられるスポットが後種にはまったく認められないことが判明した。しかしながら,これらの成分の有無がC. macrophyllaとC. brachypodaとを区別する化学的特徴であるのか,広義のC. macrophyllaの種内変異に当たるのかは判別できない。C. oblongaは数名の研究者によって,いくつかの形態的特徴からミズキ属植物のなかでより原始的であると考えられている。この種から今回得られたフラボノイドはいずれも一般的なグルコースあるいはガラクトースを結合したフラボノール配糖体であり,しかもこの種のフラボノイド合成能力は低い。筆者らは以前にゴゼンタチバナ(C. canadensis)の分析を行い,グルコースやガラクトースだけでなくキシロシルガラクトース,ルチノース,アピオシルガラクトースなど様々な糖でグリコシル化された多くのフラボノールを分離し,これらのデータからゴゼンタチバナをミズキ属の中でより原始的な種とみなしたけれど,もし単純なフラボノール配糖体しか持たず,しかもその合成能力の低いC. oblongaが原始的とみなされるのならば,ミズキ属でのフラボノイドを指標とした進化の方向は"簡素なフラボノイド組成→複雑化"であり,ゴゼンタチバナはより進化していると考えられる。
- 国立科学博物館の論文
- 1993-11-00
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