柱サボテン亜科におけるフラボノール色素の分布 : 配糖体およびその遊離型について
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概要
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サボテン科の3亜科のうち,柱サボテン亜科(subfamily Cereoideae)は最も大きく,観賞植物としても多くの重要な種類を含んでおり,園芸家などがおびただしい数の種や属を命名してきた。また形態的にも著しく特殊化している関係から,分類学的に非常に複雑,かつ混乱している植物群の一つである。植物化学的には,アルカロイドやベタレイン色素などが比較的よく研究されているが,フェノール化合物についての報告は極めで少ない。著者らは数年来,サボテンの花に含まれるフラボノイド化合物の分析を進めて,現在までにその15種類を分離して構造解析を行った。すなわち,遊離のquercetin,その3-O-galactoside, 3-O-rhamnosylglucoside, 7-O-galactoside,遊離のkaempferol,その3-O-rhamnosylgalactoside,3-O-rhamnosylglucoside, 3, 7-O-diglycoside,遊離のisorhamnetin,その3-O-rhamnosylgalactoside, 3-O-rhamnosylglucoside, quercetin 3-methyl ether,その7-O-glucoside, 4'-O-glucosideおよび部分的に定性できた5-hydroxy-3, 4'-oxygenated flavonol glycosideである(Iwashinaら1982,1984および1986)。本論文では,柱サボテン亜科の48属269種の花被片について,上記のフラボノイド化合物の構成を解明し,従来の分類体系との相関について考察した。分析方法としては,各植物の花被片のメタノール抽出物を二次元ペーパークロマトグラフィーで含有成分の組成を調査した後,マス-ペーパークロマト法,またはカラムクロマト法によって個々の成分を単離または結晶化し,基準標品との比較や紫外可視吸収スペクトルなどによってそれらの構造を決定した。フラボノイド化合物の中で最も高頻度に出現するのはquercetinの配糖体で,Echinofossulocactus, GymnocactusおよびPseudohyllocereeae族(tribe)の3属を除くすべての属(43属,Table 2参照)に含まれていた。kaempferolの配糖体も多くの植物から見い出されたが,quercetinのモノメトキシ誘導体であるisorhamnetinおよびquercetin 3-methyl etherはquercetinやkaempferolと比較するとその分布は狭く,とくにquercetin 3-methyl etherとその配糖体についてはわずかに南米大陸原産のAustroeuechinocactinae亜族(subtribe)に属する9属,すなわちCopiapoa, Gymnocalycium, Horridocactus, Neoporteria, Brasilicactus, Notocactus, Eriocactus, ParodiaおよびNeochileniaの51種の花被片から見い出されたに過ぎなかった。さらに,isorhamnetinとquercetin 3-methyl etherを共有する植物はわずかに5種だけであり,メトキシル基を3'-位に結合するか,3-位に結合するかは柱サボテン亜科の場合では二者択一的である傾向が強い。これらのフラボノール配糖体とは別に,Astrophytum属4種だけから糖を結合していないquercetinそのもの(アグリコン)が,少量のisorhamnetinとkaempferolのアグリコンを伴なって,多量に結晶として得られた。上記のような特徴的な分布をしているフラボノイド化合物がある一方,全体としては柱サボテン亜科植物に含まれているフラボノイドの分子構造は水酸基,メトキシル基,糖分子などの違いにより若干異なっているだけである。さらに,他のウチワサボテン亜科(Opuntioideae)と木の葉サボテン亜科(Peireskioideae)からもquercetin 3-methyl etherとその配糖体以外はほとんど同様の構造がみられ,結合糖の種類だけに差異のあることが知られている(Clark and Parfitt 1980, Clarkら1980, Rosierら1966, Shabbir and Zaman 1968およびRichardson 1978)。この事実から,柱サボテン亜科はもとより,サボテン科全体についても,その特殊化した外部形態的変化に比べて,内部形質の分化はまだほとんど進んでいないことがフラボノイドの分子構造から推定できる。
- 1986-03-25
著者
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岩科 司
国立科博・筑波実験植物園
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岩科 司
国立科学博物館 筑波実験植物園
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大谷 俊二
(財)進化生物学研究所
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大谷 俊二
東京農業大学生物産業学部
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岩科 司
国立科学博物館 筑波研究資料センター 筑波実験植物園
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岩科 司
国立科学博物館
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