無夷山自然保護区の樹木相とその概観
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概要
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武夷山系は中国大陸の東縁に位置し,日本に最も近い山塊の一つであるにもかかわらず,紹介されることの少なかった地域である。今回調査した武夷山自然保護区には主峰黄崗山(標高2,158m)が含まれ,立派な照葉樹林が保存されている。常緑広葉樹林は標高およそ1,700m以下に発達し,標高差および諸条件の違いにより異なる群落が認められる。なかでもブナ科植物は保護区内だけでも6属31種が確認されていて,常緑広葉樹林の中心的構成種群となっている。出現する属としてはブナ科のCastanopsis, Lithocarpus, Cyclobalanopsisなどの他に,Schima, Eurya, Photinia, Machilus, Symplocos, Rhododendronなどが多い。これらの常緑樹群に混じって, Betula, Quercus, Prunus, Liquidambarなどの亜熱帯山地性落葉樹も混在する。林冠はうっ閉していて草本層の発達は悪い。針葉樹では標高1,200m以上の岸壁やその頂部に黄山松Pinus taiwanensisが現れ,標高1,700mの谷筋には南方鉄杉Tsuga chinensis var. tchekiangensisの群落が望めた。後者は樹高20〜23mの巨木群で,この山域の希産種に挙げられている。またコウヨウザンCunninghamia lanceolataが標高1,000m以下のやや湿った場所に植林され,比較的乾いた場所にはPinus massonianaの植林が見られた。武夷山自然保護区の植物を,面積や標高などの諸条件が類似すると思われる鹿児島県屋久島,および日本全体のものと比較すると以下のようであった。(1)屋久島と武夷山の裸子植物相は類似の種類をもち,属はほとんど共通であった。(2)尾状花序群の種群を比較すると,武夷山のそれは屋久島より10属,種類で2倍数を超え,日本全体の種数に匹敵した。(3)離生心皮をもつ種群を比較しても,キンポウゲ科を除けば,武夷山自然保護区は日本全土におけるより属,種類とも多い。(4)日本の照葉樹林においてもブナ科植物は重要だが,武夷山におけるその位置には遠く及ばない。Fagus, Quercusを除き,すべての属で日本全体の種類にまさる。以上,単純に武夷山を屋久島や日本全体における属や種数で比較したにすぎないが,武夷山は古い起源の植物を多く含み,日本の照葉樹林を考察するうえで重要な山塊と位置づけられよう。
- 1997-12-25
著者
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