九州端島におけるワモンゴキブリの棲息状況と駆除実験成績
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概要
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1.1959年5月8日より6月9日に至る間, 長崎県西彼杵郡高島町の端島において, ゴキブリの棲息状況の調査, 及び殺虫剤による駆除実験を試みた.2.採集数1232匹中, 3匹のクロゴキブリPeriplaneta fuliginosa Servilleを除いて, 他はすべてワモンゴキブリPeriplaneta americana L.であり, 1958年の予備調査の結果とあわせ, 端島のゴキブリの優占種はワモンゴキブリであり, しかもきわめて高い比率を占めることを認めた.3.実験地のアパートからトラツプによつて採集されたワモンゴキブリは, ♀より♂の方がはるかに多い.一方, ほぼ同時間に採炭坑内から採集されたワモンゴキブリは, ♀の方が♂より多いことを知つた.4.ワモンゴキブリは実験地のアパートに確率的に分布するのではなく, ある特定の家に集中する.そして, 各戸面接調査によつて得た環境条件と, トラップで捕獲したゴキブリ数の相関をしらべた結果, カマドの使用頻度が高く, カマドの下にたきぎや紙などがつまつており, また屋内全体の湿気が高い家ほどゴキブリの棲息密度が高いことを知つた.5. diazinon 5%乳剤(塗布及び撒布, 各原液及び5倍), lindane 10%乳剤(各2倍及び10倍), dieldrin 4% lindane 6%乳剤(各2倍及び10倍), BHC50%水和剤(各10倍及び50倍)をカツコ内の濃度に稀釈し, 塗布実験区では, 1戸150ccの割でカマドや流しの周辺, 台所のすみ, 押入の入口などに刷毛を用いて巾5〜7cmに塗布した.撒布実験区では, 台所や押入入口附近のゴキブリの潜伏場所やその周辺に対し, 1戸あたり約800ccを全自動式噴霧器によつて撒布した.6.薬剤の効果を正しく把握するため, トラップあるいは視察によつて得たデータに対し, 次の補正によつて相対棲息密度指数RPIを算出した.RPI=T_<ai>/E_i×100=C_b/C_<ai>×T_<ai>/T_b×100ここで, T_<ai>, T_bはそれぞれ薬剤処理区の処理以前の1日平均捕集数, C_b, C_<ai>は同じく対照区の平均捕集数であり, またE_iは, 薬剤処理を全く行わないと仮定した場合の処理区のi日後の期待捕集数で, 次によつて得られる.E_i=T_b×C_<ai>/C_b 7.同種の薬剤で, 塗布の効果は一般に撒布の効果に劣る.トラップの捕集数から判定すると, lindane撒布, lindane・dieldrin混合剤撒布がもつとも有効であるが, 1ヵ月後にはほぼもとの相対密度まで回復する.diazinon撒布及び塗布, 混合剤塗布がこれにつゞき, lindane塗布は効果がそれほど大きくない.BHCの撒布と塗布は, 効果がほとんど認められなかつた.8.視察及び死亡虫数から効果を判定すると, おゝむねトラップによる方法と結果が一致するが, ただBHC撒布の効果が著しく高くあらわれた.9.薬剤処理後のワモンゴキブリの性比及び幼虫比を, 処理前及び対照区のそれと比較検討した結果, 処理区では, 全成虫中に占める♂の比率及び全ゴキブリ中の幼虫の比率がともに減少する傾向にあることを知り, これを♀に対する♂の, また成虫に対する幼虫の, 薬剤に対する高い感受性によるものと推定した.結果において, 薬剤処理区では, ♀の比率が高まることを知つた.10.アパートの各戸内に床面積1m^2あたり9.2cc(約300cc/33m^2)のDDVP0.3%油剤を煙霧機によつてふきこんだが, ワモンゴキブリに対して, ほとんど効果が認められなかつた.11.端島で1959年6月以降行われたゴキブリ全島駆除の概況を附記した.
- 日本衛生動物学会の論文
- 1959-12-25
著者
-
鈴木 猛
東京大学伝染病研究所寄生虫部
-
緒方 一喜
国立予防衛生研究所衛生昆虫部
-
長田 泰博
東京大学伝染病研究所寄生虫研究部
-
平社 俊之助
東京大学伝染病研究所寄生虫研究部
-
長田 泰博
東京教育大学農学部応用動物学研究室
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