醤油の色 : (第6報)ペプチドの褐変への影響
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概要
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醤油の褐変速度は糖-アミノ酸混液の褐変に比較して著しく反応速度が速いので, 醤油中には褐変を促進する物質(し褐変速度が極めて速い物質)が存在するのではないかと考えた.そこでグリシン・キシローズ, グルコース及び有機酸の混合液に少量の生醤油を添加して加熱した.褐変速度は少量の醤油添加で顕著に増大した.このシリーズ第5報で報告した様に醤油の色沢や褐変速度に大きな関係を持つ因子は諸味工程中の醗酵に醤油中の非アミノ態窒素特にT. N. -F. N. 区分である.本報においては醤油中の非アミノ態窒素のうちT. N. -F. N. 区分の褐変への影響について検討した.醤油中には褐変に関与するペプチド(T. N-F. N区分) の外に多くの成分を含有するため, 醤油麹菌の水抽出物を酵素液として大豆蛋白質を分解し, ペチプドの多い液を調製し種々の段階にペチプド以外の成分を除去し, 褐変への影響を検討した.大豆蛋白の酵素分解液は可成り顕著に褐変を促進した.また, この大豆蛋白の酵素分解液から少量含まれている蛋白を除くと, より一層顕著に褐変を促進した.更に少量含有するアミノ酸を除きペチプド区分を濃縮すると更に一層褐変促進作用が増大した.本実験に用いたペチプド液はそれ自身キシロースと反応して褐変するばかりでなく, キシロース-グリシンの褐変反応も顕著に促進している.この場合グリシンの減少量と等モルのアンモニアを生成してた.ペントース消費量当りの褐変量は反応組成により全くまちまちであるが, ペントース-グリシー系にペチプドが存在するとペントース, グリシンの消費も大きく褐度も顕著である.ペプチド液中のペプチドの分子量は, 大体アミノ酸5〜3のポリマーと推定された.そして醤油中にも同様のペプチドが多く存在する.醤油やペプチド液をCM, Sephadex C. 25 の column に通すと3つの区分にわかれる.このうち1番早く溶出してくる区分Iは着色が著しく, 他の2つの区分II及びIIIに比較しても分子量大きい, 残りの2つの区分は分子量が同じである.分子量の測定は Sephadex G-52 の column で行なった.これらのペプチド量はアルカリ分解後, ニンヒドリンで発色し吸光度で求めた.吸光度からいうとこれらの量は区分III>II>I であるが, 褐変が著しくなるとペプチド中のアミノ酸残基が破砕されるためにニンヒドリンによる発色が低下することも考えられる.ペプチド液を加熱するとこれら3つの区分は増大する.これはペプチドから褐変により酸性ペプチドが生成するためであろう.生醤油を加熱すると, これらの区分は1度増大してから次第に減少する.ペプチドより褐変により生成した区分I, II, 及びIIIは更に褐変してアミノ酸残基が破砕されるため減少するものと考えられる.つまりこのペプチド液より醤油の方が更に褐変速度が大である.このことは色濃度の増加速度からもいえる.著者は更にこれらのペプチド類が清酒や味淋中に存在することを認めた.従って, 清酒や味醂の褐変の一部はこれらペプチドによると考えられる.本実験に用いたペプチド液を醤油に添加して加熱すると褐変速度は増大した.従来, 褐変の主体は糖や糖より生成した褐変の中間体とアミノ酸によるものが主体と考えられる向きもあるが, 醤油の場合はアミノ酸よりもペプチド区分の褐変が非常に速い.醤油の褐変中に消費されるアミノ酸の量は極めて少ないこと及び褐変によりアンモニアが増大しないことからもアミノ酸の関与している量の少ない事がわかる.醗酵により諸味期間中還元的に保つことや, このペプチド類以外にも醤油の褐変に関与する物質はあると考えられるが, このペプチド類も褐変に関与する主要な成分の1つである.また, このペプチド類は味淋や清酒中にも存在し, これらの醸造物の褐変の一因となっているものと推定される.醸造工程の変動とT. N. -F. N. 及び褐変速度の関係を重回帰分析で解析した.原料当りの汲水量は褐変速度に大きな影響を与え, 両者は負の一次及び偏相関がある.また, T. N. -F. N. も原料当りの汲水量と負の一次および偏相関を有し, 汲水量の多少が醤油になってからの色沢安定性に重大な影響を与えていることが確認された.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1971-03-25
著者
-
斎藤 伸生
キッコーマン醤油株式会社中央研究所
-
横塚 保
キッコーマン醤油株式会社中央研究所
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奥原 章
キッコーマン醤油株式会社・中央研究所
-
斉藤 伸生
キッコーマン醤油株式会社・中央研究所
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斉藤 伸生
キッコーマン醤油株式会社 中央研究所
-
奥原 章
キッコーマン醤油株式会社 中央研究所
-
斉藤 伸生
キッコーマン醤油(株)中央研究所
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