醤油の火入れ〓発生機構, 蛋白分子間の疎水結合の役割 : 醤油のに〓関する研究(第9報)
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概要
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醸造醤油は生のままでは透明であるが, 火入れという80℃近辺での加熱工程を経ると, 蛋白質と主成分とする混濁ないしは凝固物(火入れ〓)を生じる.自然沈降法により, この火入れ〓を清澄醤油と分離するいわゆる〓引き法では, 〓量は火入れ醤油に対して5〜10%(v/v)にも達する.高い商品価値維持上からも, 市販製品に二次混濁(〓)が生じるのを阻止する必要があるが, このためには火入れ過程で凝固性蛋白質を充分〓化し, これを完全に除去しなければならない.蛋白混濁は, 醤油以外でも清酒, 味醂, ビール, ブドウ酒等の醸造工業においても広く問題となっており, プロテアーゼ剤添加による混濁物質の除去方法等が考察されているが, その機構はこれらの酒類各々で異なっており, 解明されていない点おある.また, 除去機構とは別に, 蛋白混濁の各々の酒類中での必然的な発生機構については不明な点が多い.醤油の火入れ〓発生における生醤油プロテアーゼの役割はすでに明らかになったが, 本報ではさらに, 蛋白質(〓)自体の不溶性(〓発生)機構について検討した.セライト濾過により清澄化した生醤油を80℃で火入れ後, 充分〓引きした後沈澱した〓成分を分離し, 2〜4℃で蒸留水に透析して〓成分とは無関係な低分子醤油成分を除去した〓溶液(エキス0.821%, 蛋白質0.588%, 炭水化物, 0.233%, 灰分0.034%), および生醤油をアミコン, UM-10で濃縮, 洗浄した〓母体部質含有溶液(エキス8.091%, 蛋白2.05%, 炭水化物4.50%, 灰分0.481%)を試料とした.また, 蛍光実験に際しては, 〓は上記のものをさらに0.14M酢酸緩衝液(pH5.0)で遠心洗浄をくりかえし, 上澄に着色がなくなった〓を用い, 〓母体蛋白質は, 生醤油のアルコール沈殿物から, ゲル濾過等により分離精製したものを用いた.水溶液中の蛋白質分子の不溶性化に関する側鎖間相互作用には, S/S架橋, 金属をかいした結合, 水素結合, 静電気的相互作用, 疎水性アミノ酸側鎖相互間のvan der Waals力による疎水結合などが考えられる.〓溶液の濁度はpH4.8,6.0,7.0のいずれのpHでも, 食塩濃度(4.0M以下)により大きな影響を受けなかった.しかし, 高食塩濃度下では, 〓溶液の凝集が促進された.S-S切断試薬の, mercaptoethanol, 亜硫酸ソーダ, システィンおよび酸化的切断試薬の過酸化水素;さらに, -SH酸化防止試薬の, N-ethylmaleimide, dithiothreitolはいずれも〓の濁度に変化を与えなかった.また, これらの試薬は生醤油の火入れによる〓発生(85℃30分火入直後に添加)にも影響しなかった.Ethylene diamine tetraacetate(EDTA)は火入れ〓の発生は阻止するが, 生成した〓の可溶化は全く影響しなかった.一方, 尿素は1.20M以上の高濃度になると, 徐々に〓を可溶化した.この尿素の効果は蛋白分子間の水素結合の切断によるのではなく, むしろ尿素の持つ疎水結合を弱める作用によるもとの考えられる.なお疎水結合破壊試薬として知られるsodium dodecyl sulfate(SDS)は, 0.164%の〓溶液(pH4.80)対し, 2×10^<-3>M添加で, 90%以上の蛋白を可溶化し, 〓溶液をほぼ透明化した.また, 火入れ〓の発生も阻止した.螢光色素, 1-anilino-8naphthalenesulfonate(ANS)は, 0.1M酢酸緩衝液(pH5.0)中では食塩濃度(0.0-3.0M)に無関係に, 520nm付近に弱い螢光スペクトル極大を持つが, 〓蛋白と作用させると螢光スペクトルはblue shiftし, 465nm付近に強い螢光強度を持つ極大が現われた.この結果は, 〓分子中に疎水性領域が存在することを示唆する.さらに, 生醤油から分離した〓母体物質を含有する蛋白を用い, 醤油と同条件下(3M NaCl, pH5.0)で火入れし, 464nmの螢光強度の増大を〓生成反応時間の経過とともに測定すると, turbidityの増加曲線と比較的近い曲線が得られた.これは〓が生成するにつれて, 系中の疎水性領域の量が増大することを示している(最高に達した後は徐々に減少するようである).以上の結果より, 火入れ〓は〓蛋白の疎水性残基間の相互作用により不溶化していること;さらに, 清澄な生醤油からの火入れによる〓の発生は, プロテアーゼ作用を受けた熱変性蛋白分子が疎水性相互作用により, 極性溶媒の醤油中で熱力学的により安定な会合状態をとる結果起こるものであり, そのより安定な会合状態をとるためには, エネルギー障壁(たとえばconformational changeなどのため)があるので加熱(火入れ)する必要があると推定された(生醤油はから〓は発生しない).
- 1974-10-25
著者
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橋本 彦堯
キッコーマン醤油株式会社中央研究所
-
横塚 保
キッコーマン醤油株式会社中央研究所
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橋本 彦堯
キッコーマン醤油株式会社 中央研究所
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橋本 彦堯
キッコーマン研
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橋本 彦堯
キッコーマン株式会社
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