醤油の色 : (第4報) 還元による褐変物質の脱色と褐変反応の抑制
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概要
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還元方法としては軽金属などによる還元および電解還元法を用いた. 1. 金属による還元 : Na, Al, Mg, Fe, Zn, Snの軽金属などは液体食品を還元し, 褐変物質を脱色する. 軽金属がイオンとなって溶出する際に放出されるエレクトロンにより直接的にあるいは間接的に褐変物質が還元され無色の物質になるものと考えられる. これらの軽金属による還元脱色の前後において褐変反応速度にほとんど変化なく一度還元脱色された色は加熱や酸化により容易に着色することはないと考えられる. また, Al^<+++>は褐変抑制効果があると云われているが, 醤油の場合効果はなかった. 金属の種類および液体食品の違いにより, 脱色速度や脱色量は異なる. 一般的傾向として酸度の高い, pHの低い液体食品は金属と急速に反応する. しかしあまり急速に反応すると脱色が行なわれず適当な反応速度がある. Na-アマルガムやMgは濃縮リンゴ果汁や醤油と急速に反応するが脱色効果は小さい. Mgは醤油の場合増色作用を示したが, Mgの溶出によるpHの上昇が原因したものと考えられる. ZnはMgほど反応は速くないがよく脱色する. Alは反応速度は遅いが長期間にわたり徐々に脱色する. Feは濃縮リンゴ果汁の場合は少ないながら脱色効果はあったが, 醤油では何らの効果もなかった. Snも反応速度は遅いが僅かながら脱色効果がある. 軽金属は第3報の抗酸化剤より脱色力は大きく, 反応速度も速い. 2. 電解還元 : 著書はさらに還元剤や還元剤の酸化物が食品中に溶け込まない方法として電解還元法を用いて醤油成分を還元し, 褐変との関係を検討した. 本報では素焼板で陰極室と陽極室にわけた電解槽 (I) と陰極及び陽極が同一の容器内にある電解槽 (II) の2種類を使用した. 陰極としてはアルミニウム又は, 鉛アマルガムを用いた. 陽極としては炭素棒を用いた. 陽極室には電解質溶 (食塩水や有機酸水溶液) を入れ陰極室に被脱色液を入れた. 醤油の色は電解還元で全て消失するのではなく, ある種の色はいくら還元しても消失しない. また, 糖とアミノ酸をアルカリ性で加熱褐変させた液も電解還元である程度脱色された. 醤油は電解還元によりレダクトン類が増加し, それに伴って少量のフェリシアン化カリ還元性物質が増加した. レダクトン類のデハイドロキシ化合物が還元によりレダクトン類になるものと推定される. 又, 電解還元の初期においてシスティン様の臭が生成した. おそらくR-S-S-R' およびR_2 C=SがR-C-SHに還元されたためと考えられる. 電解により醤油中のH^+が陰極で放電するためと, 陽極室より陰極室へ徐々にNa^+が浸出するため陰極室内の醤油は次第にpHが上昇する. pH5付近で還元した場合は単に脱色が行なわれるのみで, 脱色処理後の醤油の酸化的および非酸化的褐変速度にほとんど変化は認められなかった. 電解還元で生成したレダクトン類の65%は80℃, 30分の加熱で消失した. しかし残りは消失しにくい. 生醤油にキシローズ1%を添加して70℃に加熱しながら電解還元すると褐変速度は遅くなる. しかしペントーズの消費速度は対照 (電解還元をせずに70℃に加熱しているキシローズ1%を添加した醤油) と同じであった. それにもかかわらずレダクトン類の生成や増色は大きく抑制された. 従ってアミノ-カルボニル反応の初期の反応は抑制されないが, 発色の反応やレダクトンの生成する反応 (褐変反応中期) は抑制されるものと推定した. つまりpH5付近における電解還元でも還元中は褐変反応はある段階において抑制されることを示している. 醤油を中性又はアルカリ性で電解還元すると, その後の褐変速度が抑制された. つまり中性付近で還元される物質が褐変反応に重要な役割を演じていると推定される. 生醤油にアスコルビン酸を添加すると短時間に消失することは第3報に述べたが, 生醤油にアスコルビン酸を添加し, 酸性および中性ないしアルカリ性で長時間電解還元してもアスコルビン酸は再生しなかった. 電解還元法による脱色はほとんど不可逆反応である. 酸性で還元した場合, 還元の前後で褐変速度にほとんど変化が見られないこと, および, 電解槽IIのごとく, 陰極で還元, 陽極で酸化の両方が同時に行なわれても, 醤油の場合は電解槽Iとほぼ同様に脱色されたことから明らかである. 電解還元で濃縮リンゴ果汁や, 著るしく褐変した味淋も電解還元で脱色された. 以上の結果から醤油の嫌気的褐変 (系外からの酸素の供給のない褐変) も酸化反応が重要な因子となっていると推定される. 色の淡い醤油は色が安定であることは森口らにより認められているが, 著者らはさらに, 醤油の色を活性炭や酸性白土により脱色してもほとんど安定化せず, 醗酵の良い諸味よりの生醤油は色が淡く, 褐変反応速度も遅いことを報告した. 前報では還元剤により醤油の色が脱色されたり, 非酸化的褐変も僅かながら抑制されることを報告した. 本報ではさらに充分な還元を行なうこ
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1970-03-25
著者
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斎藤 伸生
キッコーマン醤油株式会社中央研究所
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奥原 章
キッコーマン醤油株式会社・中央研究所
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斉藤 伸生
キッコーマン醤油株式会社・中央研究所
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斉藤 伸生
キッコーマン醤油株式会社 中央研究所
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奥原 章
キッコーマン醤油株式会社 中央研究所
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斉藤 伸生
キッコーマン醤油(株)中央研究所
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