醤油の官能検査法に関する研究 : (第9報) 嗅覚判断に関する香気パターンの構成
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概要
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醤油中の多数の香気物質のうちで, 醤油の香りを与えるために本当に必要な物質はなんであるかを見出すことは重要である. そのためには, 醤油の香りと官能検査の関係について, 体系的に考察することが必要である. その第一歩として, 本報では感覚判断の標準化を行なった. 醤油の香りに関する側面的特性はひじょうにたくさんであるが, それらは互いに関連をもち, 重複をもちながら, 醤油の香りという感覚判断を構成する. したがって, 特性群の類似性を最も良く説明しうる, 特性群の1次結合の組を求めるとき, これらの一次結合はいくつかのパターンによって構成されることが推測される. また, 醤油の香りとして人間の感覚に受容される質的な因子は少数に限られるであろう. このような見地からこの質的な因子(パターン)の抽出を行なった. 得られたパターンは, (i)第一次因子-醸造醤油, アミノ酸醤油の混合比率に関するパターン, (F_<1α>)(ii)第二次因子-微生物の汚染に関するパターン, (F_<2α>) (iii)第三次因子-麹菌種による薬品臭に関するパターン, (F_<3α>) (iv)第四次因子-熟成の度合に関するパターン, (F_<4α>) (v)第五次因子-火入に関するパターン, (F_<5α>)であった. この第五次因子までで全体の変動を約75%説明することができた. したがって, 感覚判断による醤油の香りを質的な因子として, 上記の5つのパターンによって大部分表現できるものとする.17個の香りの特性値は互いに関連を持ちながら醤油の香りを構成しているので, 個々の特性値間の関連性について, 相関係数, 因子負荷量から検討した. 5つのグループに分けられた.上記のように得られた香気パターンと醸造工程間の関連性について検討し, 各香気パターンが独立に, 各工程から生成されることが分かった. 今後はこれらの関連性を中心に, 香気パターンと香気成分間の関係を研究してゆく.5つのパターンが香りの嗜好性とどのように結びついているか, そのモデルについて考察を行なった. このモデルはより高い嗜好性を持った醤油を作り出すための情報としてひじょうに重要である. 香りの嗜好性と香気パターンとの関係を重回帰モデルとして設定し, 回帰関数, 重相関係数などを決めた.P_a=-0.494F_<1α>-0.248F_<2α>-0.163F_<3α>-0.054F_<4α>+0.051F_<5α>-0.092(重相関係数 : 0.908)香りの嗜好性(P_α)と各香気パターン(F_<ia>)間の相関係数, T-値, 寄与率を求めた. このモデルの寄与率は82.4%で, この5つの香気パターンで香りの嗜好性の大部分の線型的に関係づけることができる. 香気パターンのうち特に, 第1次因子, 第2次因子の寄与率が大きく, 第4次因子の寄与率は小さかった. 香りの嗜好性を高くするには, 純醸造醤油のみでアミノ酸醤油を含まず, 細菌による汚染のない, 醗酵の良い醤油(火入工程も重要である)を作ることが重要である.前報において, 品質設計, 品質管理, 品質保証などの目的のために, 醤油の品質と化学成分間のシュミレーション・モデルを作成したが, 香気成分と香りの嗜好性間のシュミレーション・モデルの研究は今後の課題である.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1969-12-25
著者
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