<原著>喫煙行動の形成・変容過程に関する考察
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概要
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本研究は健康行動の形成・変容過程を考察するための1つの予備的研究として, 近年話題になっている喫煙行動をとりあげ, その行動を規定し形成している社会的・心理的変数の関与について, 大学生男子を対象に3回の調査を実施することにより分析を試みた。主要な結果は次のように要約される。1. 喫煙者の比率はかなり高く, その開始時期はかなり早期であるが, 全般的には喫煙に関して否定的・消極的な意識を持つ者が多い。逆にこのことは否定的意識を持ちながらも喫煙を継続したり, 喫煙に移行したりする者が多いことを意味し.喫煙の形成過程の考察においては他の社会的・心理的変数の認識の重要性を示唆するものである。2. 数量化理論第III類により喫煙行動に関する基礎的・社会的変数の規定力を分析した結果, 生活満足度・親友の喫煙状況・喫煙有害意識などが高い偏相関を示した。3. 性格との関連をみると, 抽出された4因子のうち情緒性と適応性の因子で差異が認められ, 情緒性と適応性は喫煙者ほど顕著であるのに対し, 意志性は非喫煙者において高いことが明らかにされた。4. 健康の状態と意識については, 相対的に非喫煙者ほど健康度が高く, 健康の重要性を強く認識しているが, その差はそれはど顕著ではなく, 健康以外の要因の重要性が示唆された。5. 喫煙を認知的にいかに評価するか, つまり喫煙に関する信念ついては, 因子分析により感情性・社会性・身体性という4つの因子が抽出されたが, 喫煙者と非喫煙者の間には感情性因子において最も顕著な差異が認められた。特に喫煙移行群では喫煙開始以前から信念のレベルが低く, 喫煙に伴い感情性因子において著しい低下がみられた。6. 喫煙の有無により喫煙に対する情緒的・表出的なイメージ(態度)には大きな違いが存在し, 喫煙者ほど好意的・積極的イメージを持っていた。特に喫煙移行群では喫煙開始以前からイメージが好意的であり, 喫煙に伴いそれは更に積極的なものとなった。7. 娯楽や文化的活動における差異をみると, 喫煙者ほど商業的・奢移的活動への志向が強く, 非喫煙者ほど文化的活動やスポーツへの志向が強い。8. 喫煙に対する重要な他者の影響において, 家族の影響は強いとはいえず, 友人の影響が顕著である。しかしながら, 禁煙の忠告の可能性(規範信念)においては家族のそれがやや強く, 友人の場合は著しく弱い。9. これらの結果を総合的にみるために重回帰分析により諸変数の相互の関係を検討した。その結果, 喫煙行動に密接に関連する変数として喫煙に対するイメージ(態度)があげられ, 次いで重要な他者の喫煙状況の関与が強く, この2変数によって喫煙行動のほとんどが説明された。以上みてきたように, 喫煙行動に対して重要な影響力あるいは規定力をもつ変数として, 特に情緒的・感情的・表出的な成分を中心,とする喫煙に対するイメージ(態度)および信念や, 友人を中心とする重要な他者などが重視されるべきことが明らかにされたことは, 従来の喫煙防止教育, つまり規範的あるいは認知的側面を中心とした考え方に対して, 若干の再考を促すものとなるものであるとともに, 健康問題に関する社会科学的アプローチの今後の必要性と可能性を示唆するものであるといえよう。
- 1985-03-30
著者
-
徳永 幹雄
Institute of Health Science, Kyushu University
-
徳永 幹雄
第一福祉大学人間社会福祉学部
-
橋本 公雄
Fukuoka Institute of Technology
-
多々納 秀雄
Institute Of Health Science Kyushu University
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