センリョウ科の葉に潜るコハモグリガ属の1新種1新記録種の記載および蛹の形態
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概要
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コハモグリガ属Phyllocnistis(ホソガ科コハモグリガ亜科)は,幼虫が葉やまれに茎の表皮にもぐる潜葉性の小蛾類で,成虫は開張4-8mm,世界におよそ90種が,日本では7種が知られる.本属には多くの学名未決定種の報告があり,皇居の蛾類調査によってフタリシズカの葉に潜るフタリシズカコハモグリPhyllocnistis sp.2が同じくセンリョウ科のヒトリシズカに潜るP.chlorantica Seksjaeva,1992とは別種として報告されていた(大和田ら,2006).そこで本研究は,センリョウ科に潜るコハモグリガの形態・生活史の解明に努めた.その結果,フタリシズカとセンリョウの葉に潜る1新種ヒトリシズカの葉に潜る1新記録種の計2種をセンリョウ科から認めた.フタリシズカコハモグリ(新種)Phyllocnistis shizukagozen sp.nov.とヒトリシズカコハモグリ(新称)P.chlorantica Seksjaeva,1992の幼虫・蛹を観察し,蛹の形態を記載した.新種とヒトリシズカコハモグリの2種は,前翅斑紋・雌雄交尾器などの形態形質で別種であることが支持されたが,蛹のコクーンカッターの形態はよく似ていた.両種は,若齢期に葉の裏側表皮に潜り,2齢に脱皮後,葉組織を通って表側表皮に移動して葉を食べ進む.その後,終齢の直前に表側表皮から裏側表皮に移動しマユを作り蛹になった.このような潜葉習性をもつコハモグリガ属の種はこれまで知られていなかった.1.Phyllocnistis shizukagozen Kobayashi&Hirowatari sp.nov.フタリシズカコハモグリ(新種)(Figs 2A-B,3A,4A-E,5,7,9A-B)開張5.5-6.8mm.前翅は銀白色で翅中央に基部から黄金色の不明瞭な帯が2つ走り,縁毛の頂点の斜条はS字形になる.雄交尾器のバルバは,先端が幅広くなる.雌交尾器のシグナは2個でそれぞれ大きさが異なる1本の突起を有する.蛹のコクーンカッターは,三角錐形で先端が針状になる.幼虫は6月から10月にフタリシズカの葉に若齢時は裏側表皮に極細の線状潜孔を作り,2齢に脱皮後,葉の組織を通って表側表皮に移り蛇行した線状潜孔を作る.その後,再び裏側表皮に移り,終齢に脱皮後,マユを作り蛹になる.分布:本州(岩手,東京,長野,三重,奈良,大阪,和歌山),九州(福岡,鹿児島).寄主植物:フタリシズカ,センリョウ(センリョウ科).2.Phyllocnistis chlorantica Seksjaeva,1992ヒトリシズカコハモグリ(Figs 2C,3B,4F-I,6,8,9C-D)開張5.5mm.前翅は銀白色で翅中央の縦帯を欠き,翅頂点に2つの黒点を有する.雄交尾器のバルバは,細く内側に曲がる.雌交尾器のシグナは一対で,それぞれ1個の突起を有する.蛹のコクーンカッターは,前種と似るがより鋭角な三角錐形.幼虫は,6月にヒトリシズカの葉に線状に替る.潜葉習性はフタリシズカコハモグリと同様である.例外的に,裏側に移らず,表側表皮にマユを作り蛹になる個体も観察された.分布:北海道,本州(長野,三重),九州(福岡);ロシア極東.寄主植物:ヒトリシズカ(センリョウ科).
- 2011-12-27
著者
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広渡 俊哉
Entomological Laboratory Graduate School Of Life & Environmental Sciences Osaka Prefecture Unive
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小林 茂樹
Entomological Laboratory Graduate School Of Life & Environmental Sciences Osaka Prefecture Unive
-
広渡 俊哉
Entomological Laboratory College Of Agriculture Osaka Prefecture University
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小林 茂樹
Japan Society For The Promotion Of Science:entomological Laboratory Graduate School Of Life & En
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広渡 俊哉
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科昆虫研究グループ
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