Jamides属(鱗翅目,シジミチョウ科)の研究 : I. マレー半島産Jamides属16種の雌交尾器の記載
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概要
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Jamides属(ルリウラナミシジミ属)は東洋区からオーストラリア区にかけて広く分布し,これまで約50種が記載されている.本属はFRUHSTORFER(1915),RILEY&CORBET(1938)などによって研究されているが,総合的な再検討は全く行われていない.本属は外見上非常に良く似た種を多く含んでおり,特に雌は外見だけでは種の同定が困難な場合が多いにもかかわらず,これまでに雌交尾器の形態に関しては全く調べられていなかった.本論文ではJamides属の系統分類学的研究の第一歩として,マレー半島に産する全16種の雌交尾器を記載し,図示した.この研究の結果,雌交尾器の形態,特にgenital plate, ductus bursae, vagina, intersternal pouch等の形状は種を識別する上でも,種間の系統関係を考察する上でもきわめて重要であることがわかった.なお,本属中には翅の斑紋,雌雄交尾器等にもとついていくつかの種群を認めることができるが,マレー半島産の種に関しては翅の斑紋にもとづくELIOT(1978)のグルーピングが雌雄交尾器の形態から見ても現在もっとも妥当であると考えられるので,本論文では暫定的にこれに従った.以下,各種について雌交尾器の形態にみられる特徴的な形質を簡略に示す.I.bochus群 1.J.bochus交尾板は発達しない.Corpus bursaeは楕円形でductus bursaeは短い.Vaginaは長卵形に膨大し,glandulae sebaceaeは産卵口から前方へ離れた位置に開口する.II.celeno群 (i)cyta亜群 1.J.cyta交尾板は大型で台形のlamella postvaginalisが発達し,その基部約半分を半円形で後縁中央部がややくぼんだlamella antevaginalisが覆う.(ii)celeno亜群(本亜群に属する種では,一般的にintersternal pouch,すなわちostium周辺の袋状膜質部が深く体腔内へ陥入し,apophyses anterioresは非常に短い.)1.J.celeno交尾板は発達しない.Ductus bursaeは一様に細長く,後方の約1/6が骨化する.Intersternal pouchは深く,その腹面両側は弱く骨化し,背面には多数の細かい皺が横に走る.2.J.pura翅の斑紋,色彩により前種celenoと区別されるが,雌交尾器の形態には前種との顕著な差異は認められない.3.J.zera第8腹節の腹面ほぼ全域に広がる楯状の顕著なlamella postvaginalisが発達する.4.J.malaccanus Lamella antevaginalisは板状でほぼ長方形,後縁はV字形に切れ込む.5.J.parasaturatus前種に較べてlamella antevaginalisは著しく小さく,後縁は前種のように切れ込みが入らず一様である.6.J.philatus Lamella antevaginalisは鏃形で後縁はわずかにV字形に切れ込み,後縁から基部まで走る中央の裂け目によって左右に分断される.7.J.aratus Lamella antevaginalisは薄い板状で細長い台形,後縁はわずかにV字形に切れ込む.Lamella postvaginalisはlamella antevaginalisの1.7倍で長楕円形,腹中線に沿って浅いくぼみが走る. (iii)elpis亜群(本亜群に属する種では一般的にintersternal pouchが非常に浅く,apophyses anterioresは棍棒状となる.また,ductus bursaeの後方,ostium付近がよく骨化・肥大する傾向がある.)1.J.elpis Lamella antevaginalisはほぼ三角形で,後方中央は鋭く突出する.Ductus bursaeの後方,ostium付近は強く骨化・肥大し,骨化部の中央付近,すなわちductus seminalisが開口する位置でややくびれる.2M.alecto Lamella antevaginalisは薄い舌状突起となって後方へ突出する.Ductus bursaeの後方部はよく骨化し,後方に向かって次第に太くなる.3.J.talinga Lamella antevaginalisは極端に狭くて長い突起となって後方へ突出し,第8腹節腹面基半以上に達する.Papillae analesは他種と比較して顕著に細長い,4.J.caeruleus Lamella antevaginalisは板状で幅広く,後縁は丸みを帯び,第8腹節腹面の基半部を覆う.Ductus bursaeは後方で顕著に骨化・肥大し,ostium付近の背面両側にはlamella postvaginalisに癒合する顕著な隆縁を具える.5.J.abdul Lamella antevaginalisはほぼ半円形で,後縁は不明瞭に鋸歯状を呈し,背面中央およびその両側には浅い溝が縦に走る.6.J.ferrari交尾板は基半部が円筒状で,後方に向かって背面側から次第に開いて半円筒状となる.Ductus bursaeは後方のostium付近でも一様に細く,膜質である.7.J.cunilda Lamella antevaginalisは小型でほぼ半円形,ductus bursaeの後方,ostium付近は弱く骨化するが,elpisやcaeruleusのように肥大しない.
- 1986-01-30
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