ヒロオビヒゲナガに関する生物学的知見
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概要
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ヒロオビヒゲナガNemophora paradisea(Butler)は,本州,四国,九州に分布し,成虫が8月に発生することが知られているが,その生活史や飛翔活動の日周性についてはまったく知られていなかった.そこで,本研究では,本種の生活史の一部を明らかにすることを目的とし,その日周活動パターン,産卵寄主などを調査した.調査は,1995年8月21日,8月24日,9月1日に,滋賀県木之本町管山寺付近の林道沿いで行った.分類学的には,本種N.paradiseaは,最近Kozlov and Robinson(1996)によって,N.decisella(Walker)(基産地はスマトラ)のシノニムとされたが,これについては再検討が必要であると思われるので,ここではparadiseaを用いた.調査の結果,成虫,特に♂の飛翔時間は日没前後に集中し,アカソなどの草本の上空で群飛(スウォーム)を行うことが明らかになった.群飛は8月21日,8月24日,9月1日のすべての調査日で確認された.8月24日の日没後には1例だけ交尾個体が観察された.また,9月1日には♀成虫がオミナエシ科のオトコエシPatrinia villosaの花のつぼみに産卵するのが観察され,本種の寄主植物がはじめて明らかになった.♀はオトコエシを吸蜜源としても利用しており,長時間(43±25.3分,n=7)にわたって産卵・吸蜜を繰り返していた.また,♂の吸蜜行動はまったく観察されなかった.ヒゲナガガ科において♂が群飛する種では,♀が群飛の中に飛び込んで交尾が成立すると考えられている(Kozlov,1987)が,♂の群飛後に交尾個体が観察されたことから,ヒロオビヒゲナガでも同様の配偶行動を行っている可能性が高い.8月21日,8月24日にはオトコエシはまだ開花していなかったこと,9月1日にはほとんどの♀が開花したオトコエシの花のみを吸蜜源として利用し産卵を繰り返していたことから,♀は産卵時期をオトコエシの開花時期と同調させていると思われる.また,日本(近畿)産のヒゲナガガで,春季に出現するゴマフヒゲナガやクロハネシロヒゲナガでは,ほぼ終日活発に飛翔するのに対して,夏季に出現するベニオビヒゲナガや今回扱ったヒロオビヒゲナガなどは活動時間帯が夕刻にずれる傾向があることを示した.ウスベニヒゲナガ(Nemophora)属の日周活動パターンを明らかにするには,今後さらに多くの種でデータを蓄積する必要がある.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1998-10-05
著者
-
広渡 俊哉
Entomological Laboratory College Of Agriculture Osaka Prefecture University
-
永池 徹也
Entomological Laboratory College Of Agriculture Osaka Prefecture University
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