タヒチ島産Nacaduba属(鱗翅目,シジミチョウ科)の1新種
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概要
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著者の原雅幸が1988年9月に南太平洋のタヒチ島で採集した28♂3♀に基づいて記載した.本種は外観的に同島産のHypojamides catochloris(BOISDUVAL)に似るが,成虫ならびに卵の形態を詳しく調べたところ,Nacaduba属(アマミウラナシジミ属)の新種であることがわかった.Nacaduba tahitiensis sp. nov.タヒチシジミ(新種新称)(Plate 1,Fig.1-3)♂の翅表は暗紫色で外縁黒帯は約1.0mm.♀の翅表は♂よりも明るい青紫色で,前翅前縁を含めて1.5-2.0mmの外縁黒帯がある.雌雄ともに前翅裏面は暗褐色で条線は不明瞭.後翅裏面の地色は前翅と同じく暗褐色だが,亜外縁斑の内側に鈍い金属光沢のある緑色鱗が現れる.前翅第11脈は基部付近で第12脈と癒合し,再び離れて前翅前縁に達する.雄交尾器のbulbus ejaculatoriusはphallusのsubzonal seath背方ほぼ全面につく.雌交尾器のcorpus bursaeは球状で,鈎状のsignaが発達し,ductus seminalisがductus bursaeへの開口部付近で太くなる.卵は直径0.7mm,高さ0.4mmの扁平な饅頭型で,卵殻面の隆状突起の背方の局辺域でやや高くなる.Holotype.♂.北九州市立自然史博物館所蔵Paratypes.27♂,3♀.北九州市立自然史博物館,大英博物館(自然史),大阪府立大学農学部昆虫学研究室ならびに著者(原雅幸)所蔵.本種は同島産のH.catochlorisに似るが,以下の点によって区別できる:(1)翅形は本種よりもcatochlorisのほうが丸みが強い.(2)本種では前後翅裏面にくさび状の亜外縁斑をもつが,catochlorisではこれを欠く,(3)catochlorisでは前翅裏面の翅頂部付近と後翅裏面全域に鈍い金属光沢のある緑色鱗が現れるが,本種では前翅裏面にはこの緑色鱗は現れず,後翅裏面でも亜外縁班の内側に限定される.また,本種は後翅裏面に緑色鱗を有することでNacadubaの他の種とは外観的にかなり異なるが,上記の翅脈,雌雄交尾器などの形態的特徴によってNacaduba属に含まれることは疑いない.卵についても隆状突起,ロゼットや精孔部などの形状は基本的にNacadubαkurava(アマミウラナミシジミ)のものと類似している.本種tahitiensisはタヒチ島のマラウ山(1493m)の山頂付近で1988年9月18日午前10時30分から正午の間に採集された.気温は23℃(正午),約3mの灌木上(Plate 1)で日が射すと数個体が活発に飛び,陰ると葉上に静止していた.日光に輝く後翅裏面の緑色鱗は金属的で美しく,飛翔は敏速であった.一方,本種に類似するH.catochlorisは同島のFautaua谷2,500f.(約800m)の地点で1925年3月11日に1♀(この個体は現在大英博物館に所蔵されている)が採集されたが,その後まったく採集記録はない.POULTON&RILEY(1928)はcatochloris1種に基づいてHypojamides属を創設し,ELIOT(1973)はこれを暫定的にNacaduba sectionに含めたが,catochlorisの分類学的取り扱いについては今後さらに検討する必要がある.末筆ながら,本原稿を作成するにあたり,大変お世話になった九州大学名誉教授白水隆博士と北九州市立自然史博物館の上田恭一郎博士,H.catochlorisの調査をお許しいただいた大英博物館のP.R.ACKERY氏,ならびに本種採集に便宜を計っていただいた岩崎暁氏に深甚なる謝意を表する.
- 1989-06-20
著者
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