スラウェシのLycaenopsis群(鱗翅目,シジミチョウ科)
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概要
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ルリシジミ類を含むLycaenopsis群については,Eliot&Kawazoe(1983)の分類学的再検討があり,この研究は現在でも重要な参照体系となっている.筆者は,1985年イギリス王立昆虫学会によって主催された昆虫相調査'Project Wallace'に参加し,多くの材料を得ることができた.本論文では,これらの標本にもとづいてスラウェシならびにその周辺域におけるLycaenopsis群の再検討を行い,新種Sancterila drakeiを記載するとともに,いくつかの分類学的変更を行った.以下にその概要を示す.Neopithecops umbretta dorothea Eliot&Kawazoeスラ諸島に分布するが,近縁のN.zalmoraと同様にスラウェシ本島では知られていないようである.本属がマラヤ,ボルネオ,フィリピン,北モルッカに広く分布するにもかかわらずスラウェシに分布しないのは興味深い.Sancterila Eliot&Kawazoe(=Celarchus Eliot&Kawazoe)Eliot&Kawazoe(1983)は,vinculumが背方で内側に深く窪むことからCelarchus属を創設したが,この特徴は彼らが同時に創設したSancterila属にも認められることが分かった.Eliotらはこれを見落としており(Eliot私信),前者を後者のシノニムとした.S.deliciosa deliciosa(Pagenstecher)本種は,著者が1985年に多くの個体を採集するまで,holotype 1個体のみが知られていた.スラウェシ北部に分布.S.deliciosa sohmai Eliot&Kawazoe,stat.nov.S.deliciosaのholotypeを解剖した結果,交尾器のvalvaの中央背面に刺状突起があり,Eliotらがsohmaiとして記載した種はdeliciosaと同一種であることがわかった.ここではdeliciosaの亜種とした.スラウェシ中部に分布.S.drakei sp.nov.Eliotらがdeliciosaとしたもの(誤同定)を新種として記載した.本種はdeliciosaに似るが,Eliotらが示したように♂の交尾器,特にvalvaの形状は顕著に異なっている.外見上はdrakeiの♂の前翅外縁黒帯は幅がより広く,翅頂部の紫青色の斑紋はより小さいことなどで区別できる.Udara dilecta thoria(Fruhstorfer)標高1,000mを越える山頂部などで普通にみられる.次種ronaと混同されるが,後翅裏面第6,7室の中室外斑で区別できる.すなわち,本種では第7室の斑紋は6室のものより濃く鮮明で両者が分離するが,次種では両者が帯状となり連続的に並ぶ.U.rona rona(Grose-Smith)Muajat山の標高1,500m付近で多く見られたが,1,780mの山頂では見られず,前種とは垂直分布が異なるようである.U.placidula placudula(H.H.Druce)上記2種に似るが,後翅裏面第6室の中室外斑がほぼ消失すること,♂の前翅表面外縁黒帯が広い(約1mm)ことなどで区別できる.Acytolepis puspa kuehni(Rober)本種は広域分布種で,亜種kuehniもスラウェシに広く分布する.しかし,1985年の調査ではあまり多くなく,低地の川辺,特にToraut川キャンプ地の入浴地点周辺で何らかの人工物に誘引されたと思われる多くの♂が見られた.U.tsukadai Eliot&Kawazoeこれまでトラジャ地方でしか知られていなかったが,1985年の調査では北スラウェシのMuajat山(1,780m)の頂上で3月,7月ともに普通であった.今回得られた個体の交尾器・発香鱗の形状は原記載ものと一致したが,個体の大きさに顕著な変異があった(前翅長14-19mm).Monodontides cara(Niceville)スラウェシの中-南部から知られていたが,北スラウェシのMuajat山で3月,4月に採集された.Fig.33に示したように,valvaの先端と内方の突起の形状に個体変異が認められた.
- 1995-06-20
著者
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