ツシマヤマネコ(Felis bengalensis euptilura)の糞便から得られたArthrostoma hunanensisのイエネコ(Feli catus)への感染実験
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概要
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わが国において現在絶滅の危機にまで減少し, その保護が提唱されている天然記念物のツシマヤマネコ(Felis bengalensis euptilura)の個体減少の原因の一つとして病的要因が考えられている.今回, 病的要因として最も重要視される寄生虫について現地で採取した糞便を対象に寄生虫学的検索を行ったところ, 次の結果が得られた.1.ツシマヤマネコの糞便21検体の虫卵検査でSpirometora erinaceiの虫卵1種, Capillaria属の特徴を示す虫卵, Ancylostomatoidea科の特徴を示す虫卵, Toxocara cati, 所属不明の線虫卵, Isosporarivoltaのオーシストの計10種類が検出され, 糞便検査からもツシマヤマネコに広く多種の寄生虫が蔓延していることが推察された.2.ツシマヤマネコ(Felis bengalensis euptilura)に多数寄生する鉤虫科線虫について, その感染幼虫をイエネコに実験的に感染させ, 寄生虫学および寄生虫病学的検索を行った.糞便培養で得られた鉤虫感染幼虫をイエネコに感染させたところ, 胆管, 胆嚢からArthrostoma hunanensis, 結腸からUncinaria felidis, 小腸から種不明のUncinariaの3種類が多数回収された.更にA.hunanensisは, 経口投与ではイエネコに容易に感染したが(感染率平均8.25%), 経皮感染は成立しなかった.Prepatent periodは20〜25日であったが, 虫卵が一旦胆嚢内に停留した後, 胆汁と共に排泄されると考えると, 約20日で成熟するものと思われる.感染数が多いほど激しい下痢や嘔吐などの重度の臨床症状を呈した.病理学的には, 胆管壁の肥厚と充出血, 胆汁の白色化, 増量, 胆嚢の膨満, 小葉間胆管の拡張などの変状がみられ, 組織学的には胆管炎, 胆管周囲炎が主変状で, 肝細胞は圧迫性萎縮, 壊死を来し, 軽度な線維化がみられた.膵管内に寄生がみられた例では膵臓間質の炎症性反応が顕著でその周囲には膵細胞の萎縮, 壊死, 膵島の減数も認められた.以上のことより, ツシマヤマネコにはかなりの寄生虫が蔓延していることが明らかとなり, さらに胆管に寄生するArthrostoma hunanensisは, 感染実験の結果病原性の強いことが判明し, 幼獣では死亡率も高いことが示唆された.
- 鹿児島大学の論文
- 1992-03-30
著者
-
安田 宣紘
鹿児島大 農
-
安田 宣紘
鹿児島大学病態予防獣医学講座病理学分野
-
安田 宣紘
家畜病理学研究室
-
安田 宣紘
鹿児島大学 家畜病理
-
清水 孜
家畜病理学研究室
-
伊沢 雅子
琉大・理・生物
-
阿久沢 正夫
家畜内科学研究室
-
三好 宣彰
鹿児島大学農学部
-
三好 宣彰
家畜病理学研究室
-
阿久沢 正夫
鹿児島大学農学部獣医学科家畜内科学教室
-
清水 孜
鹿児島大学農学部
-
丸山 浩幸
家畜病理学研究室
-
伊沢 雅子
北九州市立自然史博物館
-
Izawa M
Faculty Of Science University Of The Ryukyus
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