カイウサギにおける実験的小型膵蛭症
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概要
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牛の小型膵蛭症における保虫宿主として, 牧野に生息するノウサギが関与する可能性を検討するためにノウサギにおけるE.coelomaticum寄生状況と中間宿主とされる直翅目昆虫のmetacercaria保有状況をE.coelomaticum汚染牧野で現地調査し, さらに, ウサギを用いて感染実験を行った.感染実験はカイウサギを用い, ササキリより採取したmetacercaria200個を9頭に投与し, 32日間, 60日間, 90日間.さらに, 1000個, 2000個を各2頭に投与し, 130日間観察した.実験期間中, 臨床及び血液学的検査並びに糞便検査を行い, また, 適時, フィルムテスト, 皮内反応試験, metacercariaの血清反応を試みた.回収した虫体については寄生虫学的検査を, 膵臓病変については病理学的検査を行った.以上の調査.実験から次の結果を得た.1.汚染牧野から採取したノウサギの糞便に高率にE.coelomaticum虫卵が検出され, 本虫がノウサギに広く蔓延していることが判明した.2.汚染牧野に生息する直翅目昆虫の中, ホシササキリ, コバネササキリ, オナガササキリの3種類に多数のmetacercariaがみられ, 特にコバネササキリが高い保有率を示し, 時季的には, 秋季に保有率が増加する傾向が認められた.3.感染実験ウサギの臨床及び血液学的検査では, 全例に血清アミラーゼ値の上昇傾向が認められたが, 他に特に異常な所見は観察されなかった.4.Metacercaria投与から虫卵排泄までの期間(prepatent period)は平均89.8日で, 他の動物におけるより短かったが, EPGの日間変動には一定のパターンはみられなかった.虫卵の大きさは, 平均44.05×29.87μmで他の動物における場合とほぼ同様の計測値を示した.5.フィルムテストによる膵臓機能検査では, 1000個, 2000個投与例で明らかな異常を示し, 多数寄生例では膵臓機能低下を呈することが考えられた.6.虫体の生理食塩水懸濁液を抗原とした皮内反応検査では, 感染ウサギと非感染ウサギとの間に顕著な差は認められなかった.7.脱嚢子虫に対する血清反応検査では, 感染130日目ウサギ血清で絮状沈着物の形成が認められ, 診断的有用性が示唆された.8.実験感染ウサギから回収した虫体と牛および山羊由来虫体の形態, 計測値の比較においては特に有意な差は認められなかった.9.膵臓病変は, E.coelomaticumの回収率(回収虫体数/metacercaria投与数)が低かった200個投与例では膵臓の病変は軽度で, 16.5〜27.7%の高い回収率を示した1000個および2000個投与例では, 膵管の肥厚, 導管の拡張, 粘膜上皮の乳頭状増生, 間質結合織の増生, 微小導管の腺腫様増生, リンパ球の浸潤, 膵細胞の圧迫, 萎縮, チモーゲン顆粒の消失などが観察され, 重度なものでは虫卵結節や膵硬変像も認められた.これらは, 重度感染牛で観察された病変とほぼ同様であったが, 牛, 山羊で認められるglobule leukocyteの出現は認められなかった.以上のことより, E.coelomaticum汚染牧野にはmetacercaria保有ササキリが多数生息し, これをウサギが摂取することにより容易に感染が成立することが実証され, しかも感染ウサギは, 高度感染して重度な膵病変を形成してもほとんど臨床症状を呈することなく虫卵を排泄することが明らかとなった.これらの結果は, 牧野に生息するウサギが牛のE.coelomaticumの感染源となりうる可能性を強く示唆するものである.
- 鹿児島大学の論文
- 1991-03-15
著者
-
安田 宣紘
鹿児島大学病態予防獣医学講座病理学分野
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安田 宣紘
家畜病理学研究室
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安田 宣紘
鹿児島大学 家畜病理
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清水 孜
家畜病理学研究室
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清水 孜
鹿児島大学農学部
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間世田 和久
家畜病理学研究室
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間世田 和久
家畜病理学研究室:(現)中村愛犬病院
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