微弱な周期信号で駆動されたカオスニューラルネットの共振現象

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工学の分野では, 信号に対する背景ノイズは厄介なものとして扱われ, 減らそうと努力する. しかし, ある非線形系では, 背景ノイズが微弱な信号の検出に役に立つことがわかってきた. この現象を確率共振(stochastic resonance)と呼んでいる([1]など). 確率共振の基本的なメカニズムは, 双安定系が二つのポテンシャルのくぼみの間の壁を越えない程度の弱い周期信号と, 適当の大きさを持ったノイズの両方で駆動されると, 周期信号に同期してポテンシャルの壁を越え, 周期信号に対して共振を起こすというものである. あるしきい値を越えない弱い周期信号だけでは, ポテンシャルの壁を越えることができず, ノイズのおかげで初めて, 局所安定点の間を行き来することができる. この系の状態の時系列のパワースペクトルには, 駆動周期信号の周波数とその高調波成分にピークが見られる. これは, 確率共振が背景ノイズから微弱な信号の検出を強調していることを示している. この現象は, 実際のザリガニの感覚神経細胞においても発見され, 明らかに, 背景ノイズから何らかの信号を分離する機能を担っていると考えられる[2]. ここでは, カオス結合系における共振に着目し, 生物系におけるその役割を考察したい. 生物系におけるノイズを決定論的カオスと見なせば, 生物系は自らカオスを発生させ, 共振を使って何らかの利点を得ていると考えられる. 生物系で観測されるノイズは白発的に発生されていて必要不可欠なものとする解釈は, 非常に興味深い. また, 近年, 相互作用による確率共振の強調の研究が時空間ダイナミクスとの関係で盛んに行なわれている[3, 4, 5]. 時空カオスに対する摂動という観点からもカオス結合系に対する研究は重要である. そこで, 本研究では, 微弱な周期信号で駆動されたカオスニューラルネットの共振現象を考察する. 合原らによって提案されたカオスニューラルネットは, ヤリイカの巨大軸索や Hodgkin-Huxley 方程式の研究に基づいている[6]. ネットを構成するカオスニューロンモデルは, しきい値のある系としての McCulloch-Pitts モデル[1]や興奮性の媒質の系としての FitzHugh-Nagumo モデル[7]の性質を受け継いでいると考えられるが, 双安定ではなく, パラメータの組み合わせによってカオス的である. 微弱な周期信号で駆動されたモデルの時系列はパワースペクトルでピークを持つ[8]. しかし, 双安定系の確率共振とメカニズムは異なる. ここでは, 全結合カオスニューラルネットを用い, その平均場に着目する. 数値計算を用いて相互作用による共振現象の変化を調べる.
社団法人電子情報通信学会の論文
1997-03-06

微弱な周期信号で駆動されたカオスニューラルネットの共振現象

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