秩父山地におけるシオジ林の林分構造と更新過程
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概要
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日本の太平洋側山地帯の代表的な渓谷林の一つであるシオジ林について,その更新過程を解析するために,秩父山地のシオジの優占する天然林について林分構造および構成木の成長経過を調査した。林冠木の齢構成は100~110年と150~160年にモードをもつ2山型の分布を示し,前者は主にサワグルミが,後者はシオジのみが占めており,空間的にもそれぞれのグループがまとまって分布していた。このような齢構成と空間分布は,それぞれのグループがギャップから再生したことを示唆している。シオジとサワグルミの若木(1.3m<H<10m)の分布様式を比較したところ,シオジの若木はシオジとサワグルミの林冠下のいずれにおいても広く分布していた。一方,サワグルミの若木は同種の林冠下には全く存在しなかった。この現象は,サワグルミの開葉がシオジよりも2週間ほど早いため,サワグルミの林冠下では耐陰性の低い稚樹の生存が難しいことに因るものと推測された。シオジには数十年におよぶ被圧期間のある個体が存在することが年輪解析から明らかにされたが,サワグルミにはこのような被圧期間を持つ個体は存在しなかった。これはシオジの耐陰性の高さを示すものと考えられた。閉鎖林冠下とギャップ内に設けたそれぞれ1個の小区画において稚樹(H<1.3m)の個体数および樹齢を調べた。その結果,シオジの稚樹はギャップで多かったものの林冠下にも数多く存在した。一方,サワグルミの稚樹は林冠下にはほとんど存在しなかったが,ギャップ内では極端に稚樹数が多く,シオジに比べてその伸長成長は速かった。これらの事実は,サワグルミがギャップ依存型の樹種であり,シオジに比べて耐陰性が劣ることを示唆している。シオジとサワグルミの耐陰性および伸長成長の差異に基づいて,シオジとサワグルミの混生する林分において,被圧期間が異なる場合の両樹種の更新様式について検討を加えた。In order to make clear the regeneration process of the ash (Fraxinus spaethiana) forest, the structure of the forest and the growth of trees were investigated in the Tokyo University Forest of Chichibu, Central Japan. In the ash stands, there were abundant juvenile trees (1.3m<H<10m) of ash and wingnut (Pterocarya rhoifolia). These juvenile trees would play a role of seedling and sapling banks. No wingnut juvenile trees existed under the canopy of wingnut. Generally, the wingnut flushes about two weeks earlier than the ash does, which makes undergrowth of wingnut canopy dark earlier. The above phenomenon was thought to be the cause of this phenology. The trees of the canopy layer showed a bimodal age-class distribution. Wingnut trees occupied the age-class of 100-110 years. Ash trees occupied at the age-class of 150-160 years. Trees standing close together were usually the same age. This relation between age structure and tree distribution suggests that seedlings established in gaps. As to radial growth, some ash trees had periods of suppression for several decades, but no wingnut trees had such suppression periods. The high shade tolerance of ash trees is suggested by this result. The components of seedlings (H<1.3m) were different between under the closed canopy and in gaps. Ash seedlings were distributed under the canopy and in gaps, but wingnut seedlings were distributed mostly in gaps. Most of the wingnut seedlings emerged after gap formation and showed rapid growth in height. These results show that the wingnut is a gap dependent tree species. Schematic patterns of the regeneration process were proposed for the ash stands, based on the distribution of the advance growth, shade tolerance, and the height growth of trees.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学農学部林学科,東京大学農学部附属秩父演習林,Department of Forestry, Faculty of Agriculture, The University of Tokyo,University Forest in Chichibu, Faculty of Agriculture, The University of Tokyoの論文
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