秩父山地イヌブナーブナ林の齢構造と更新特性
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概要
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秩父山地の標高1,160m地点にあるイヌブナ-ブナ林の更新様式を探る目的で、1990年に毎木調査と年輪解析を行い、林分構造と齢構造を明らかにした。また現在の面積が48m2と252m2の林冠ギャップ2ヶ所について発生年代と修復状況を明らかにした。さらに現在林冠を構成している樹種により区分した樹冠群ごとに、樹冠を構成している樹木の更新状況を林分構造、齢構造、成長経過から明らかにした。これらのことからイヌブナ-ブナ林の更新特性について検討した。調査区で1990年に出現していた樹種数は26種で、本数密度は2,800本/ha、胸高断面積合計は33.2m2/haであった。林冠は主にイヌブナとブナで構成され、イヌブナが本数の72.0%、相対優占度(RD)の78.8%を占め優占していた。ブナは本数の1.0%、RDの15.8%を占めていた。立枯木や幹折木等の枯死木は樹種数が6種で、枯死木の本数密度は189本/ha、胸高断面積合計は9.3m2/haであった。そのうちイヌブナが本数の89.4%、RDの60.9%を、ブナが本数の3.0%、RDの37.2%をそれぞれ占めていた。調査区に占める林冠木の樹冠投影面積の割合は87.2%で、樹種別割合はイヌブナが65.7%、ブナが17.2%、他の広葉樹類が4.3%であった。ギャップの占める割合は12.8%で、最大面積は252m2、二番目が48m2、三番目が37m2、その他は15m2未満であった。イヌブナが優占する樹冠群では直径30cm以上、樹高12m以上の幅広いサイズや樹齢120年以上の幹を持ったイヌブナ株が樹冠群全体に広く分布していたことから、イヌブナ樹冠群は全体が一斉に更新したのではなく、イヌブナが株内の幹を交代させながら徐々に更新してきたものと推察された。ブナが優占する樹冠群は現在の面積が118m2〜328m2で、1740〜1770年に発生した個体により林冠が構成されていることから、ほぼ同年代に更新したものと考えられた。しかし、その後のブナの直径成長経過は個体により異なっていた。その理由のひとつとして、成長の良好な時期のある個体は成長量を増大させた年に、そのブナと樹冠が接していた場所に林冠ギャップが生じ、光条件が好転したことがあげられた。1955年に胸高直径65cmのブナが倒れた際に生じた林冠ギャップは、現在の面積が223m2で、林冠ギャップ形成から35年経過した1990年の時点でも大きく疎開したままであった。同林冠ギャップではハウチワカエデ、コハウチワカエデ、ヒナウチワカエデなどのカエデ属が主体となって更新していた。一方、本調査区に隣接して1934年に50.17haが伐採された林分や、1990年に0.35haが伐採された本調査区の14年後の林分では、伐根からの萌芽により更新したイヌブナと、ウダイカンバ、ミズメ、ウリハダカエデ、ミズキなどの先駆性の高い落葉広葉樹類が優占していた。これらのことから、林冠ギャップの更新や修復に関わる樹種は、攪乱の種類や林冠ギャップの大きさによって異なることが示唆された。
- 2008-12-00
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