秩父山地亜高山地帯における風倒跡地林分の再生過程
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概要
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秩父山地の亜高山針葉樹林は1959年の15号台風(伊勢湾台風)によって風倒が発生し大きな撹乱を受けた。同地域における風害後の更新過程を解明する目的で,1971年に標高1,950mの風倒跡地に設置した調査区(130m2)において1994年までに4回の調査を実施した。同調査区は,1956年の択伐施業前にはコメツガを主体にシラベの混生する林分であった。1959年の風倒によって同調査区内の直径10cm以上の樹木はすべて倒れた。調査林分の林冠は,この23年間(1971-1994年),主にダケカンバによって占められている。同林分における23年間の構成種の量的変化は以下のとおりであった。樹高1.2m以上の樹木の調査区当たりの総本数は1971年が345本,1994年が337本であった。枯死した樹木の総本数は調査区当たり139本で,そのうちダケカンバが43本でもっとも数が多かった。一方,進界木の総数は40本で,そのうちコメツガが27本でもっとも数が多かった。調査区全体の断面積合計は11.0m2/haから40.4m2/haに増大した。出現樹種数は19種から17種に減少した。高木層を構成する樹木の1994年の平均直径および平均樹高は10.7cmと10.9mで,1971年のそれは4.3cmと5.1mであった。高木層(9m≦H)を構成する樹木の胸高直径と樹高の年平均成長量は,それぞれ0.27cmと0.24mで,亜高層(4m≦H<9m)のそれは0.14cmと0.20mであった。個体ごとの直径順位関係の推移から,1994年に高木層を占める個体はいずれも1971年にすでに上位にあった個体であり,逆に同時点で小さいサイズのものほど1994年までに枯死するものが多かった。したがって,風倒後すやかに更新した個体ほどその後の生育もよいと推定された。調査林分における上記の推移傾向に加えて,コメツガはダケカンバ,シラベや他の落葉広葉樹に比べて寿命が長いことおよび高い耐陰性を有することから,現在調査区の林冠層を構成する樹種は長期間にわたる遷移過程のなかで徐々にコメツガに取って代わられるものと推定された。Subalpine coniferous forests in the Chichibu Mountains, Central Japan were severely damaged by typhoon 15. (Isewan-typhoon) in 1959. A research plot (130m2) established in 1971 on the windfall site at an altitude of 1,950 m a.s.l. was investigated four times until 1994 in order to clarify the processes of regeneration after wind damage. A stand in the plot was dominated by Tsuga diversifolia accompanied Abies veitchii before selection cutting in 1956. All the trees larger than 10cm DBH in the plot were completely blown down by the strong wind in 1959. The canopy layer of the stand has mainly been occupied by Betula ermanii in the 23 years, 1971-1994. Quantitative changes of component trees in the plot in these 23 years were as follows; Total number of stems (height>1.2m) were 345 in 1971 and 337 in 1994. Total number of dead trees was 139 stems, among which B. ermanii (43 stems/plot) was the most abundant. On the other hand, the total number of recruited trees were 40 stems/plot, among which T. diversifolia (27 stems/plot) was the most abundant. Total basal area increased from 11.0m2/ha to 40.4m2/ha. The total number of tree species decreased from 19 to 17. The average diameter and height of the trees composing the canopy layer in 1994 were 10.7cm and 10.9m and in 1971 they were 4.3cm and 5.1m, respectively. The mean annual growth of diameter and height of trees in the canopy layer (9m≦H) are 0.27cm/yr and 0.24m/yr, and those in the subtree layer (4m≦H<9m) are 0.14cm/yr and 0.20m/yr, respectively. From the analysis of the DBH-rank of every stem in the plot, trees occupying the canopy layer in 1994 had already been in the larger size classes of DBH in 1971. On the other hand, most of the trees which died befor 1994 had been in the smaller size classes of DBH in 1971. These facts suggest that trees regenerated earlier have the advantage to grow faster than those regenerated later. In addition to these trends of succession in the stand, B. ermanii, A. veitchii and other deciduous broad-leaved trees composing the canopy layer in the plot at present are gradually being replaced by T. diversifolia in the long course of succession, because the latter, characterized by its longer life span and higher shade tolerance, has an advantage over the former.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学農学部附属演習林秩父演習林,東京大学農学部附属演習林北海道演習林,University Forest in Chichibu, Faculty of Agriculture, The University of Tokyo,University Forest in Hokkaido, Faculty of Agriculture, The University of Tokyoの論文
著者
-
梶 幹男
東京大学大学院農学生命科学研究科
-
五十嵐 勇治
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林秩父演習林
-
大村 和也
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林秩父演習林
-
澤田 晴雄
東京大学大学院農学生命科学研究科
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