秩父山地のイヌブナ-ブナ林における17年間のブナ類堅果落下状況
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概要
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秩父山地のイヌブナ-ブナ林における17年間の堅果落下状況の推移から、イヌブナ、ブナともに2年に1回程度結実(総堅果落下量≧20個/m2)することが明らかになった。最大総堅果落下量はブナで992.4個/m2(1993年)、イヌブナで943.9個/m2(1988年)であった。ブナおよびイヌブナの豊作年(総堅果落下量≧100個/m2)には明瞭な周期性は認められなかった。両種の豊作年が重なるのは2.3~3回に1回程度であると推定された。 ブナとイヌブナの豊作年における平均健全堅果率(健全堅果量/総堅果落下量)は、イヌブナの方がブナよりも有意に高かった。同じく豊作年における両種の平均虫害堅果率(虫害堅果量/堅果落下量)はイヌブナよりもブナが有意に高かった。豊作年における総堅果落下量に占める潜在健全堅果量(健全堅果量+虫害堅果量+鳥獣害堅果量)の割合は7割程度で、平均値は両種間で有意な差がなかった。また、潜在健全堅果量に占める虫害堅果量の割合、すなわち虫害堅果率の平均値はブナがイヌブナよりも有意に高かった。これらのことから、ブナの健全堅果率が低い原因は同種の虫害堅果率が高いことによるものといえる。 両種の豊作が同調した1993年と2000年の虫害堅果の落下時期はブナの方が早い傾向にあった。その原因として、ブナ堅果がイヌブナ堅果に比べて、早く成熟時の堅果サイズに達することによるものと推察された。ブナの虫害堅果落下時期は6月初旬~8月初旬および10月中旬~10月下旬に二つのピークが認められた。ブナの虫害堅果落下時期が二山型を示す現象は、東北地方と栃木県高原山においても観察されており、少なくとも東北地方から関東地方に広くみられる現象である可能性が示唆された。ブナ、イヌブナ堅果に共通する主要食害者としてブナヒメシンクイが重要であることが示唆された。日本海側に比べて太平洋側のブナの虫害堅果率が高い原因として、後者は冬期寡雪であることおよびイヌブナとブナが混生しており、両種の豊作年が必ずしも重ならないことが重要であると推論された。
- 2001-12-00
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