甲状腺ホルモンによる絨毛トロホブラストの内分泌機能の修飾

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甲状腺ホルモンの胎盤絨毛への直接的生物作用を明らかにする目的で, ヒト絨毛組織のin vitro培養系において, 各種濃度の甲状腺ホルモン添加が培養絨毛トロホブラストの内分泌機能に及ぼす影響を検討した。妊娠初期絨毛培養系では, 適量の甲状腺ホルモン (10^<-8>M T_3) 添加によって, 培養絨毛トロホブラストのprogesterone並びにestradiolの産生, 分泌がそれぞれ3β-hydroxysteroid dehydrogenaseとaromatase活性の促進を介して有意に増加し, 同時にhCG (α, β) 並びにhPLの産生, 分泌が増加することを認めた。しかし, 甲状腺ホルモン過剰状態 (10^<-3>M T_3添加下) では培養絨毛トロホブラストのprogesterone並びにestradiolの産生, 分泌は逆に有意に抑制された。他方, 妊娠末期絨毛培養系では, 甲状腺ホルモン添加によるprogesterone, estradiol, hCG (α,β), 並びにhPL産生, 分泌の有意な増加は認められなかった。妊娠初期絨毛培養系で認められたトロホブラスト内分泌機能に対する甲状腺ホルモンの最大刺激濃度10^<-8>M T_3はヒト血中での生理的濃度に近似しており, 適量の甲状腺ホルモンの存在は妊娠初期絨毛トロホブラスト内分泌機能のamplifierとして働き, 妊娠初期の維持に生理的役割をはたすことが推察された。したがって, 甲状腺機能異常合併妊婦で高率にみられる流産は, 胎盤絨毛での甲状腺ホルモンレベルの異常により, トロホブラスト内分泌機能のamplifierとしての甲状腺ホルモンの向胎盤作用が十分に発揮されないことに起因すると考えられ, 血中での甲状腺ホルモンレベルの異常を伴う不育症に対する甲状腺ホルモン療法の有用性の根拠が初めて明らかにされたといえる。
社団法人日本産科婦人科学会の論文
1991-11-01

甲状腺ホルモンによる絨毛トロホブラストの内分泌機能の修飾

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