S^v型細胞質と1BL-1RS染色体を利用する雑種コムギ育種のための菊培養による雄性不稔維持系統候補の育成
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概要
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コムギの1B染色体短腕にはAekotschyiのS^v細胞質に対する稔性回復遺伝子Lfv1が座乗している.コムギのIB染色体とライムギのIR染色体の相互転座に由来するIBL-IRS転座染色体はRfv1を欠くため,IBL-IRSホモのコムギ系統はS^v細胞質によって雄性不稔となり,一方,1B染色体を持つコムギ品種は全て回復系統として利用できる.このS^v型細胞質と1BL-1RS染色体の相互体用による雄性不稔を利用して雑種コムギを育成する際に必要な雄性不稔維持系統の育種法として我々は先に戻し交配法と霜培養法の2つを提案した.我々は先に,戻し交配法を用いて雄性不稔系統と維持系統の育成に成功し,その成果と見いだされた幾つかの問題点についてはすでに報告した(野中ら1993).今回は,霜培養法による雄性不稔維持系統候補の育成を試みたので,ここに得られた成果と見いだされた問題点について報告する.IBL-IRS染色体を導入する母材としてブルガリアのI,.Panayotovが育成した911-B-8-10(以後,系統911と略記)を用いた.新しい雄性不稔維持系統を育成するために交配親として用いた日本品種は先鞭の戻し交配法の研究において使用したものと同じ極早生〜中生(秋播性程度I〜IV)の13品種である.系統911を母親と13品種との交配および戻し交配をおこない,得られたF_1およびB_1F_1個体の箱を培養に供した.単交配F_1の霜培養での胚状体形成率は母親として使用した系統911の特性が優性に働き,日本品種よりもかなり高率であり,緑色植物再分化能も高かった.しかし,日本品種を戻し交配したB_1F_1の霜培養では胚状体形成および緑色植物再分化能はかなり低下し,反復親の特性に近づいた.赤さび病抵抗性遺伝子工Lr26がIRS染色体腕に座乗していることを利用して,IBL-IRS染色体を保持している半数体を選抜するため,再分化苗に赤さび病菌を人工接種した.まず,単交配F_1の菊培養再分化個体について選抜し,染色体倍加により倍加半数体を育成した.この倍加半数体を花粉親として(S^v)-ChineseSpringに交配したF1雑種は自殖稔性が高かった.一方,IBL-IRSを持つ(S^v)-Salmonとの交配F_1は自殖稔性が全くなかった.このことから,赤さび病抵抗性をマー力ーとして選抜した倍加半数体はIBL-IRS染色体をホモにもち,新しい雄性不稔維持系統となり得ることが示された.再分化個体の約半数が赤さび病抵抗性であり,蒋培養を通してのIBL-IRS染色体の伝達には選択的な偏りは認められなかった.菊培養からの胚状体形成率および緑色個体再分化率は系統911と日本品種とのF_1で何れも高率であり,B_1F_1ではかなり低下した.しかし,F_1では交配組合せにより大きな差がみられ,胚状体形成率および緑色植物再分化能はIBL-IRS染色体の優性効果に強く依存するものの,交配に用いた両親の遺伝子型にも支配されていることが明らかとなった.
- 日本育種学会の論文
- 1994-03-01
著者
-
島田 多喜子
石川県農業短期大学農業資源研究所
-
大谷 基泰
石川県農業短期大学農業資源研究所
-
藤田 雅也
九州農業試験場
-
島田 多喜子
石川県立農業短期大学付属農業資源研究所
-
鳥山 國士
全国農業協同組合連合会
-
常脇 恒一郎
京都大学
-
野中 舜二
石川県立農業短期大学
-
木庭 卓人
石川県立農業短期大学付属農業資源研究所
-
大谷 基泰
石川県立農業短期大学付属農業資源研究所
-
常脇 恒一郎
福井県立大学
-
島田 多喜子
石川県農業短期大学農業資源研究所遺伝資源第一研究室
-
大谷 基泰
石川県農短大 農業資源研
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