二次林保全の社会経済的意義
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概要
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都市の環境悪化とその改善が大きな社会的問題となっている中で,特に都市域に立地する里山二次林が生活環境を形成する重要な要素として注目されている。しかし生活環境の一部として二次林をとらえ,都市民がそれを利用することを想定した場合,近年必ずしも良好な状態に二次林が保たれてきたとは言い難い。そこで,二次林を持続的に利用することを通じて適正に維持管理を行うための方策を模索するため,植生管理における技術面および森林保全を担う仕組みとしての社会面から二次林の保全システムについて検討を行った。ここで保全とは「賢明な利用」を包含する用語であることを示しておく。そこで都市においては主要な二次林利用である森林公園化に対して,まず技術面から,行政が立案・計画し,業者に発注する「従来型森林施業方式」と,市民が主体となる「市民参加型森林施業方式」について,それぞれの施業方式が森林公園としての利用目的に合ったものであるか,また施業の結果が利用する主体である市民の要望に沿ったものであるかについて評価を行った。この両面への評価結果を「合理性」と呼ぶこととする。その結果,両方式はそれぞれで異なった合理性の尺度を持ち,結果として都市域内二次林の多様性を形成していることが分かった。それらは対立するのではなく補完する関係を持っているといえる。次に二次林の利用や維持管理(すなわち保全)を円滑に行うための社会システムについて検討を行った。ここでは二次林を利用する主体が市民であることを基題にして,森林整備や維持管理に対して市民は行政との関係をどのように築きながら活動していけばよいのかを検討した。この中で市民参加型の二次林保全事業の事例に基づき,市民参加型の整備活動が,都市域内に立地する二次林の画一化を防ぎ,全体として多様性を確保し,景観など都市環境の改善,環境学習の場としての利用,森林体験,生物生息環境の保全などの機能を社会的に確保していることを示した。二次林が画一化された空間になってしまうことをいかに防止するか,今後は二次林保全を個人所有者にのみ依存するのではなく社会的な仕組みの中で活用し維持管理することを通じて,地域の環境保全を達成する「環境保全コミュニティ」形成を図っていくことが重要で,二次林保全はその中軸課題となりうる。またその過程の中でこそ二次林は「社会的共通資本」化しうるのである。
- 岐阜大学の論文
- 1998-12-26
著者
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