印伝革の基礎的研究
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概要
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印伝革の素材となる脳漿なめし白革はどのような革か, 走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡で皮練維の分離及び脂質の分布状態を観察した。なめし剤となるウシ脳については, 新鮮脳を1年間貯蔵して腐敗させた脳漿について, これらの一般組成と共に, 貯蔵中の酸敗による脂質の変性成分を溶剤分画法によって分離すると共に, 特に低分子のアルデヒド成分についてはガスクロマトグラフィーによって分離同定した。脳漿なめし白革の特性に関しては, この革と類似の姫路白革, セーム革などと比較して, 熱収縮温度, 熱溶脱窒素, 耐酸, 耐アルカリ性, トリプシン消化性などの相違から検討し, 最後に革の機械的強度についても試験を行った。得られた主な結果は次の通りである。1) 脳漿なめし前後のへら掛けの効果が, 皮線維の分離の状態から認められた。2) 新鮮脳と脳漿との比較で, 一般分析, 脂質の特数, 脂質の溶剤分画及びアルデヒドの同定などの結果から, ウシ脳の脂質は酸敗により, 低分子のアルデヒド, 遊離脂肪酸などに変性されているのが認められた。3) 脳漿なめし白革の特性を, これと類似の姫路白革, セーム革などと比較すると, 耐熱, 耐酸, 耐アルカリ, 耐酵素性などから, 姫路白革, 鹿生皮とよく似た性状で, これらの結果からみて, なめしの効果はかなり少ない。印伝革の柔軟性は鹿皮線維の特別な性状とコラーゲン線維束のほぐれによるものであり, 特有の滑る様な感触は脳の貯蔵中に生じたリン脂質分解産物の影響が大きいものと思われる。特に有効な鞣皮成分はなく, 油脂を用いて, 単に機械的に皮線維をもんで柔らかくするのが原始的製革法の一つのあり方である。
- 神戸大学の論文
- 1985-01-31
著者
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