<原著>身体的健康のパターン分析と要因分析
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概要
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本研究は, 社会学的視点から, 現在の身体的健康の構成因子の解明や社会的諸要因の関連などの究明のために, 一般社会人956名を対象に質問紙調査を実施し, それに対していくつかの統計技法を適用し分析を試みた。主要な結果は次のように要約される。(1)身体的健康の状態に関わる62項目について主因子法による因子分析を通用し第6因子まで抽出した。その結果, 固有値および累積寄与率はあまり高くなかったが, 解釈可能な因子として, 次の因子が抽出された。第1因子…高体力・運動能力に関する因子 第邦2因子…身体の快調性に関する因子 第3因子…積極的行動能力に関する因子 第4因子…諸器官の正常性に関する因子 第5因子…不定愁訴に関する因子 ここで第5因子は, 第4因子の裏返しとみることも可能であるため, 身体的健康の主要な構成因子は第1から第4までの四つの因子と考えてもよいだろう。(2)因子分析における因子負荷量を指標として, 非階層的クラスター分析を通用し, 身体的健康の因子および関連諸要因との関係を検討した。その結果, 下記の4クラスターが抽出された。各クラスターの特徽は表8,図4に示される通りである。 第Iクラスター…積極的健康型 第IIクラスター…健康無視型 第IIIクラスター…健康安定型 第IVクラスター…健康不安型 (3)「現在の身体的健康の状態」(健康群と不健康群)を外的基準とし, 一方関連する52要因を説明変数として, 数量化理論節II類を適用した。その判別力・相関比は共に著しく高く設定された要因の有効性が示現された。1. 単相関の高い要因は, 健康満足度・健康への不安・健康的生活・現在の体力度などであったが, 要因群別には基礎的・社会的要因群を除く他の要因群すべてに高い相関が認められた。2. 偏相関の高い要因は, 健康への不安・健康的生活・現在の体力度・胃薬の服用・健康満足度などであり, その結果, 単相関・偏相関共に高く身体的健康度に密接に関連する要因としては, 健康満足度・健康への不安・健康的生活・現在の体力度などがあげられる。3. 単相関と偏相関を比較すると, その相関の高さは要因別・要因群別にかなりの相違がみられたが, 特に, 体力要因と健康要担の各群は単相関・偏相関共に高いのに対し, 基礎的・社会的要因群のそれは共に低い傾向にあった。(4)クロス集計およびカテゴリースコアの検討の結果, 諸要因と身体的健康度との関係は要因群別に次のように要約される。1. 基礎的・社会的要因について健康群は, やや若い, 太りぎみ, 中都市出生, 住宅地区居住, 職業は農業・専門職・ブルーカラー, そして過去・現在共に経済状態が良い, 等々を属性とする者が多い。2. スポーツ要因群についてみると, 健康群ほど, 過去にスポーツを奨励され, 過去・現在共にスポーツを多く実施し, そしてスポーツに対して好意的で満足度が高い。3. 体力要因群は全要因群中で最も強い規定力を示したが, 特に健康群は過去・現在共に体力が著しく高く, 現在の体力に満足し, 運動不足感がないのに対し, 不健康群は全く逆の傾向を示し, その差は顕著であった。4. 健康要因群もかなり強い関連を示したが, 特に健康への不安・健康満足度・健康的生活などでそれが顕著であり, 健康群ほど健康に注意した生活を営み, 現在それに満足し健康に不安を感じていない傾向にある。その他の特徽としては, 健康群は過去に健康増進を積極的に奨励され, 過去の健康度もよく, また現在健康の重要性を強く認識していることも指摘される。5. 「非常に健康」とする者と, 「非常に不健康」とする者は共に食事.・栄養・睡眠などに非常に注意する傾向にあるが, 健康群と不健康群との問題ではそれほど顕著な差異は認められなかった。また当然の結果であるが, 不健康群ほど栄養剤や市販薬の服用が多い。6. 前記の結果に関連して, 健康群はど胃薬, 降圧剤, ビタミン・栄養剤, 精神安定剤, 頭痛・鎮痛剤などを服用しない傾向にあったが, 整腸・下剤とカゼ薬については有意な差異が認められなかった。7. 過去の罹患状態と身体的健康の問では諸要因にいずれも有意な差異が認められ, 不健康群はど罹患経験が顕著であった。(5)「身体的健康度」を判別し規定する要因と, 「病気の有無」を判別し規定する要因との間には要因別・要因群別に著しい差異が認められ, 例えば, 基礎的・社会的要因の偏相関は前者では著しく低いのに対し, 後者では著しく高い傾向にあることなどが示唆された(6)身体的健康度の形成過程, つまり諸要因との因果関係を把握するために, 関連する5要因を選びパス解析を適用した。その結果, 現在の身体的健康度はスポーツ経験・高校あるいは体力への影響者によってかなり強く因果的に規定されているのに対し, 他の要因(出生地, スポーツ経験・中学, 過去の体力度)の直接効果ははとんど認められなかった。
- 1982-03-30
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