<原著>体力の社会的規定要因に関する考察
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本研究は, 現在の体力度と社会的諸要因の関連を明らかにするために, 男子大学生を対象に体力テストおよび質問紙調査を実施し, それに対し数量化理論第II類およびパス解析を適用し分析を試みた。主要な結果は次のように要約される。(1)数量化理論第II類の適用により, 現在の体力度が判別されたが, 相関比0.6647,判別力82.75%とかなり高く, 取りあげられた説明変数の有効性が示唆された。(2)現在の体力度と非常に高い単相関をもつ要因は, スポーツ経験(高1)および(高3), 健康法(睡眠)そして体力の自身である。要因群別には, 「過去の健康・体力要因」群である。一般に, 現在よりも過去の諸要因が高い相関を示した。(3)社会的諸要因は, 体力度と一次的・直接的関連をもつ過去・現在の体力・スポーツ・健康官憲要因の媒介を経て機能するところの, 二次的・間接的あるいは基礎的要因群を形成する。(4)体力度と非常に高い偏相関をもつ要因は, 健康法(睡眠), 体力への影響者, スポーツ経験(高1), 健康への影響者, 体力の自信, 母のスポーツ活動などである。過去の健康・体力要因は単相関・偏相関共に著しく高く, 現在の体力度を最も強く規定する要因群と考えられる。一方, 再考の単相関を示した過去のスポーツ要因の偏相関は著しく低いのに対し, 低い単相関であった社会的要因の偏相関は相対的に高かった。(5)カテゴリースコアをみると高体力群は次の諸特性を持っている。1. 過去の体力度及び健康度に優れ, それについて強い意識と自信を持っている。2. 過去・現在のスポーツ経験や実施度が豊かである。3. 重要な他者に関して恵まれている。4. 体力・健康・スポーツに対して積極的・肯定的意識・行動を特徴とする。(6)現在の体力度と関連諸要因の関係は次のように要約される。1. 幼児期あるいはそれ以降の生育環境は体力の発達にかなりの影響を及ぼし, 大都市出生, 兄弟姉妹パターン, 等々の者は低体力の傾向にある。2. 両親の人口統計的要因ではあまり強い関連は認められないが, 両親のスポーツ活動とその奨励は体力度と強く関連している。一般に, 両親が積極的にスポーツに参加し奨励している者, そして両親の諸条件(学歴・職業・収入)に恵まれている者ほど高体力の傾向が強い。3. 一般に, スポーツ経験が豊かであり, またスポーツの友人や条件に恵まれていた者はど高体力の傾向が認められた。しかしこれらの過去のスポーツ要因は体力度と一次的・直接的に関連しているがそれ自体の規定力は概して弱い。但し, スポーツ経験(高1)は強い規定力を示した。4. 過去の体力・健康要因群は単相関・偏相関共に全要因群中で最も高く強い関連を示した。特に, 過去の健康と体力が優れていた者, それにかかわる重要な他者に恵まれていた者, 等々は高体力に判別された。ところで, 過去の健康や体力の程度以上に, 健康や体力ヘの影響者の偏相関が高く, 社会的要因の重要性が示唆された。5. 健康法としての睡眠は非常に強い関連を示したが, 他の健康法はそれほど強い影響を持たなかった。注意すべきことは, 健康法の非実施者あるいは無関心者ほど高体力であり, 体力とパーソナリティとの強い関連が示唆された。6. 生活意識に関する諸要因の単相関はかなり低かったが, 偏相関ではいくつかの要因で強い関連が指摘された。一般に肯定的・積極的な生活意識を持つ者ほど高体力である。7. 現在のスポーツ要因群は, 著しく低い単相関にもかかわらず, 多くの要因は非常に高い偏相関を示した。高体力者は現在スポーツクラブに所属しスポーツ行動意図が高い, 等々の傾向が示唆されたが, 要因群全体に関連するパターンは認められなかった。8. 健康・体力意識の要因群の中で, 健康関連要因は殆ど関連を持たなかったが, 体力関連要因つまりその自信や意識は強い関連を示し, 特に高体力群では体力の自信があり, その満足度が高く, 体力の重要性を意識していた。(7)現在の体力度の形成過程つまり諸要因との因果関係を把握するために, 関連する5要因を選びパス術析を適用した。その結果, スポーツ経験((高1)は体力度を強く規定していることが明らかにされたが, 他の要因(過去の体力度, 体力ヘの影響者, 健康法)の直接効果は殆ど認められなかった。以上, 本研究は, 現在の体力度と社会的諸要因との関連の究明を目的とした。それについて初期の目的はある程度達成されたとはいえ, それらの因果関係の解明には至らなかった。今後の課題を詳述する余裕はないが, サンプルの拡大と多様化, あるいは説明変数の精選などは当然のことであるが, 特に体力度と社会的諸要因との間の構造的・機能的な関連についての仮説的に構成された因果モデルの構築が要請されよう。
- 九州大学の論文
- 1981-03-30
著者
関連論文
- 高齢者のスポーツに関する社会心理学的研究(4) : 都市と農村におけるゲートボール実施者の比較
- 高齢者のスポーツに関する社会心理学的研究(3) : ゲートボール実施をめぐる問題について
- スポーツ行動の予測因に関する研究(3) : 男女別・年代別の比較
- 高校一流サッカー選手のキャリア形勢過程とキャリア志向
- スポーツ参加の多変量解析(II) : 数量化理論第III類によるパターン分析
- スポーツ参加の多変量解析(I) : 数量化理論第II類による要因分析
- スポーツ選手のリタイアメントに関する社会学的研究 ; 調査結果の検討
- スポーツ選手のリタイアメントに関する社会学的研究 ; 先行研究の動向
- 試合前の状態不安と実力発揮度の関係
- 喫煙行動の形成・変容過程に関する考察
- 九州大学教養部学生の体力及びスポーツ行動
- 〈研究資料〉諸外国及び日本における大学保健体育教育の動向
- 九州大学教養部学生の体力の実態と年次推移
- スポーツにおける競技特性不安尺度(TAIS)の信頼性と妥当性
- スポーツ行動の規定要因に関する研究 : その方法論的課題
- 運動によるストレス低減効果に関する研究(1) : SCL尺度作成の試みと運動実施者のストレス度の変化
- スポーツ行動の継続化とその要因に関する研究(2) : 大学生の場合
- スポーツ選手の競技不安の解消に関する研究(2) : バイオフィードバック・トレーニングによる特性不安への影響について
- 健康度診断指標の検討とその関連要因
- スポーツ行動診断検査(DISC.1)の作成
- スポーツ行動診断検査の試案
- 学生のスポーツ行動の規定要因に関する研究(3) : スポーツ関連要因について
- 「多元的現実としてのスポーツ」論の構成に関する試論的考察 : 聖-俗理論等のスポーツ論に対する意味
- 身体的健康のパターン分析と要因分析
- 〈総説〉スポーツ競技不安に関する初期的研究の動向 : 新たな競技不安モデル作成のために
- 所謂「楽しい体育」論の批判的検討
- スポーツ活動の実態と価値意識に関する国際比較研究(1) : 「日本的スポーツ」論の認識論的・方法論的諸課題
- 社会的健康の構成因子と関連諸要因に関する研究
- 体力の社会的規定要因に関する考察
- スポーツ社会学における体系的一般理論の意義
- 社会人の健康を規定する要因の研究
- スポーツ行動の予測因に関する研究(1) : 社会学的要因について
- スポーツ行動の予測因子としての行動意図・態度・信念に関する研究(II) : ランニング実施者と非実施者の諸属性の比較
- 健康度パターンと生活形態の関係に関する研究