急性白血病の薬剤耐性とABCトランスポーター
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
急性白血病の治療成績は著しく向上してきたものの、抗がん薬に対する耐性が長期生存を妨げている。抗がん薬に対する薬剤耐性は複数の機序が重なって生じると考えられている。その代表的な機序であるABCトランスポーターは、multidrug resistance 1(MDR1)と産物であるP-glycprotein(P-gp)、ABCG2遺伝子とその産物であるbreast cancer related protein(BCRP)、ABCC1遺伝子の産物であるmultidrug resistance-related protein(MRP1)などがある。いずれも細胞膜を貫通する膜蛋白でATPのエネルギーを利用して濃度勾配に逆らって薬剤を細胞外へ放出するポンプとして働く。P-gpは正常組織では、副腎、肝、腎上皮、胃腸の粘膜上皮細胞などに存在し、有害物質の細胞外への排泄により毒物から保護する機能を有する。P-gpは腫瘍細胞では、抗がん薬を排泄するように働き、その結果、細胞内の抗がん薬濃度を低下させるため、抗がん効果が減弱することで薬剤耐性をひきおこす。P-gpによって排出される抗がん薬としてはアンスラサイクリン系, ビンカアルカロイド系, エピポドフィロトキシン系などがある。P-gp は急性白血病では約20-40%の症例で発現しており、病型M4,M5に、また未熟な細胞形質を有する症例に多くみられる。予後不良な染色体異常を有する症例、高齢者、骨髄異形成症候群などに高頻度にみられる。P-gp が細胞に発現していると、抗がん薬の細胞内濃度が低く、薬剤感受性が低下する。P-gp が発現している症例では寛解率が低く、生存期間が短く、P-gp は予後不良因子である。薬剤耐性克服薬は、in vitroでは抗がん薬の細胞内濃度を高め薬剤感受性を十分に高めるが、臨床治験ではシクロスポリンやゾスキダルの効果は不十分である。今後、幅広い範囲のトランスポーターを同時に抑制する薬剤をはじめ、P-gpの発現抑制薬やP-gpの作用阻害薬などの検討が必要とされる。
- 2013-03-31
著者
-
泉二 登志子
東京女子医大心研
-
王 艶華
東京女子医科大学
-
泉二 登志子/王
東京女子医科大学医学部血液内科学/東京女子医科大学医学部血液内科学
-
王 艶華
東京女子医科大学医学部血液内科学
-
泉二 登志子
東京女子医科大学医学部血液内科学
関連論文
- 23.超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)が診断に有用であったPrecursor T-lymphoblastic lymphoma/leukaemiaの1例(第131回 日本呼吸器内視鏡学会関東支部会)
- 鉄欠乏性貧血の検査と診断
- ABO血液型minor mismatchの同種末梢血幹細胞移植後早期に起った大量の容血
- 多発性骨髄腫に対する thalidomide 療法の効果に関与する因子と効果判定時期
- 当科におけるPICC(末梢穿刺中心静脈カテーテル)の使用経験(一般演題,第329回東京女子医科大学学会例会,学会)
- 4.腹腔鏡下脾摘術を行った特発性血小板減少性紫斑病の検討(一般演題,第21回東京女子医科大学血栓止血研究会)
- 第VIII因子インヒビターによる凝固障害に対する遺伝子組換え第VIII因子製剤-CVP療法
- 難治性悪性リンパ腫に対するHLA一致同胞間骨髄移植後にthrombotic microangiopathyを発症した1例(一般演題,第22回東京女子医科大学血栓止血研究会)
- 4.第VIII因子インヒビターによる出血傾向を示した1症例(一般演題,第19回東京女子医科大学血栓止血研究会,学術情報)
- 3.再発時毎にガンマグロブリン大量療法にて寛解に導入し得た血栓性血小板減少性紫斑病の1例(一般演題,第17回東京女子医科大学血栓止血研究会,学術情報)
- 13年の経過後, 急性リンパ性白血病を発症した真性赤血球増加症
- ins(21; 8) の染色体異常を呈し, AML1-MTG8 (ETO) キメラ mRNA の発現を認めた急性骨髄性白血病(M2)
- Isolated chylopericardiumの一症例 : 第71回日本循環器学会関東甲信越地方会
- 寛解導入後8年で再発し, 僧帽弁狭窄を呈した心臓原発顆粒球性肉腫の1例
- 4. 化学療法施行後に発症した敗血症性ショックにバソプレシン少量持続投与が奏功した1例(研修医症例報告,第337回東京女子医科大学学会例会)
- 急性骨髄性白血病の治療と薬剤耐性への対策
- 分子標的療法薬,イマチニブによる慢性骨髄性白血病の治療(画期的に進歩した最新の治療法(4))
- 急性白血病の薬剤耐性とその克服の試み
- 血液疾患における非侵襲的な治療(Minimally Invasive Treatments,ワークショップ,東京女子医科大学学会第65回総会)
- 1. 血液疾患における非侵襲的治療 : 白血病における分化誘導療法とインターフェロン療法を中心に(ワークショップ 「Minimally Invasive Treatments : MIT」,第65回東京女子医科大学学会総会,学会)
- 骨髄増殖性腫瘍の治療
- 3. 急性白血病細胞における薬剤耐性遺伝子発現の臨床的意義の検討と薬剤耐性克服の試み(第10回遺伝医学研究会,学術情報)
- 6. 急性白血病細胞における薬剤耐性遺伝子発現の臨床的意義の検討と薬剤耐性克服の試み(東京女子医科大学学会第305回例会)
- 薬剤耐性急性白血病細胞に対する新しい耐性克服剤MS-209の抗腫瘍剤感受性回復に関する研究(学位論文の内容の要旨および審査の結果の要旨 第37集(平成10年5月))
- 形質細胞性白血病を疑わせるほど末梢血および骨髄に著明な多クローン性形質細胞増生を伴った Angioimmunoblastic T-cell lymphoma
- 急性リンパ性白血病に合併した腸管嚢胞様気腫症の1例 : 血液疾患に合併する同症についての文献的考察を加えて
- 濾胞性リンパ腫に対するリツキシマブ併用化学療法の当科における成績
- 成人急性骨髄性白血病の成績:単施設における後方視的検討
- 血球貪食症候群で発症し抗利尿ホルモン不適合分泌症候群を呈した血管内大細胞型B細胞リンパ腫
- 中枢性過換気を来たした中枢神経原発悪性リンパ腫
- Helicobacter pylori除菌治療後完全寛解に至った直腸MALTリンパ腫の1例
- 白血病細胞におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路と薬剤耐性
- 東京女子医科大学病院における造血幹細胞移植の後方視的解析
- 当科での急性リンパ性白血病の治療成績
- 同時に莢膜産生性の異なる2種類のC. neoformansが検出された肺クリプトコッカス症
- 急性骨髄性白血病の病型分類と染色体異常-東京女子医科大学病院血液内科の過去28年間300症例における解析-
- 急性白血病の薬剤耐性とABCトランスポーター
- 多発性骨髄腫の治療抵抗性獲得において接着分子が果たす役割
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に、M蛋白血症と免疫性血小板減少症(ITP)を併発し、化学療法により血小板数の増加が得られた1例
- 原発性骨髄線維症に合併した大量腹水に対して腹腔静脈シャントが著効した1例
- リツキシマブ併用化学療法を受けたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫における改訂国際予後指標の有用性
- レチノイン酸の骨髄腫細胞への抗腫瘍効果におけるレチノイン酸受容体αを介した作用の重要性と新たな多発性骨髄腫治療薬としてレセプター選択レチノイドの検討
- 巻頭言
- ロミプロスチムと大量ガンマグロブリン療法により脾摘が可能となった難治性特発性血小板減少性紫斑病
- (最終講義)私の歩んだ血液内科学の道-急性白血病の病態と治療の進歩-
- POEMS症候群の病変検出における18^F-FDG PET/CTの有用性
- 骨髄非破壊的同種骨髄移植後に長期寛解を維持している中枢神経浸潤を合併した再発 Hodgkin リンパ腫