算数の基礎的計算力補償教育の試み
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概要
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本研究では,小学校で学習した算数の四則演算について,小学校卒業時に,未習得な計算操作の補償教育を行うことを目的とし,そのための個別教育プランを作成し,実施した結果を報告する。基本的な四則演算は,中学校数学の学習に必要な知識・技能であり,大部分の児童が小学校卒業時に習得している。我々の調査(三浦ほか,1993)では四則演算の平均正答率は80%を越え,特に整数の問題は正答率90%以上のものが多く,繰り上がり操作,乗法・除法の筆算はほぼ習得されていた。分数の問題をみると,真分数の加減問題は80%以上,真分数の乗除問題は90%以上の高い正答率で,通分・約分の操作は習得されていたが,整数や帯分数の混じった分数問題,分数と小数の混合問題はやや正答率が低かった。分数と小数,整数と分数など異なった種類の数が混じった計算を解くには,帯分数を仮分数に変換したり分数を小数に変換する操作が必要であり,数のしくみを理解することが必要である。分数や小数の問題で生じる誤りを分析したところ,計算力の低い児童には"帯分数仮分数間の変換"や"小数分数間の変換"など「数の変換」,帯分数や整数を分数の分子に加減するなど「分数計算の基本的操作」の誤りが多く,計算力の高い者には「分数計算の基本的操作」の誤りはみられなかった(渋谷・三浦,1996)。平成元年度から行なわれた国立教育研究所の算数・数学における基礎学力に関する研究でも,全体として計算技能が高かったものの,乗法・除法の意味を十分に理解していない誤答が多くみられ,計算の技能習熟と意味理解の乖離の傾向が指摘されている(中島ほか,1995)。これらのことから,整数・小数・分数の間の数の変換や計算操作の意味を10違法の数のしくみと関連させて説明し,分数を中心にした計算操作を学習することは,特に計算力の低い児童に有効であると思われる。実際に学校教育を担当している教員は,"中学校数学の授業についていくために最低必要な算数の知識・技能"として基本的な計算操作の習得を重視していて,小学校教員では四則演算操作の全項目が,50%以上の教員から重要と評定された(渋谷・三浦,1994b)。国立教育研究所の調査でも,算数の知識・技能が基礎学力として重視され,なかでも,分数の加法・乗法,分数と小数の大小関係の問題は75%以上が重要と認識していた(中島ほか,1995)。児童・生徒も,分数同士の四則演算問題の習得を約半数以上が"重要"と答えている(三浦ほか,1996)。学力の低い児童の計算問題に関する学習意欲や関心については,深谷らの調査(1995)によれば,算数は8教科のなかで最も嫌いな教科であり,約40%がその理由として「計算に時間がかかる」を挙げ,計算操作を完全に習得していないことが算数嫌いの一因であることがわかる。我々の調査でも,算数学力の低い児童は難しい計算問題は算数のなかでも最も嫌いな領域だったが,簡単な計算問題は好きと答えた率は高かった(渋谷ほか,1985)。算数の学力が低い児童にとって,計算をすること自体はむしろ好きであり,未習得な計算操作を補償して難しい計算問題もできるようにすることは,算数嫌いを減らすことへつながるものと思われる。そこで,本研究では,四則演算操作の補償教育プランを作成し,その有効性を,演算の理解・定着,学習活動についての評価に関して検討する。そのため,以下の点を配慮した教育プログラムの作成を試みる。(1)10進法の数の仕組みや記数法と関連させて,整数・分数・小数の間の数の変換や計算操作を意味づける。(2)適切な操作を選択できるよう,計算操作の意味を意識化させる。(3)個人のペースに合わせた学習を保証することにより,達成感・満足感を高める。(4)学習状況の把握・学習内容の明確化・自己評価を導入することにより,自己学習力を高める。また,テスト結果・学習所要時間・誤答の分析だけでなく,この教育プログラムヘの感想を得て,プログラムの修正に役立てるとともに,学習状況と学習意欲との関連も明らかにしていく。
- 千葉大学の論文
- 1998-02-28
著者
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