ホッキョクグマ(Ursus maritimus)咀嚼筋の扁平な頭骨形態への適応
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概要
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ホッキョクグマ(Ursus maritimus)の頭部は,ヒグマ(U. arctos)やジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)に比べて扁平で,体の大きさの割に小さいことはよく知られている.本研究では,ホッキョクグマとヒグマの頭部を解剖して咀嚼筋を調べた.さらに,ホッキョクグマ,ヒグマそしてジャイアントパンダの頭骨を比較検討した.ホッキョクグマの浅層咬筋の前腹側部は,折り重なった豊富な筋質であった.また,ホッキョクグマの側頭筋は,下顎骨筋突起の前縁を完全に覆っていたが,ヒグマの側頭筋は,筋突起前縁を完全には覆っていなかった.ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースは,ヒグマやジャイアントパンダに比べて狭かった.さらに,側頭筋の力に対する下顎のテコの効果は,ホッキョクグマが最も小さく,ジャイアントパンダが最も大きかった.これらの結果から,ホッキョクグマは,下顎骨筋突起の前縁を側頭筋で完全に覆うことによって,下顎の小さくなったテコの効果を補っていると考えられる.また,ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースが狭いことから,ホッキョクグマは,ヒグマ同様の開口を保つために豊富な筋質の浅層咬筋前腹側部を保有していると推測される.本研究では,ホッキョクグマが,頭骨形態の変化に伴う咀嚼機能の低下を,咀嚼筋の形態を適応させることによって補っていることが示唆された.
- 社団法人日本獣医学会の論文
著者
-
遠藤 秀紀
国立科学博物館動物研究部
-
有嶋 和義
麻布大学獣医学部
-
牧田 登之
山口大学農学部獣医学科家畜解剖学講座
-
牧田 登之
日本動物病院看護士学院
-
牧田 登之
山口大学農学部
-
有嶋 和義
麻布大学獣医学部解剖学第二研究室
-
有嶋 和義
麻布大学獣医学部解剖学第2教室
-
林 良博
東京大学農学部獣医解剖学教室
-
遠藤 秀紀
京都大学霊長類研究所
-
佐々木 基樹
東京大学総合研究博物館
-
山際 大志郎
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医解剖学教室
-
林 良博
東京大学 獣医解剖
-
林 良博
東京大学農学部
-
高木 博隆
麻布大学獣医学部解剖学第二講座
-
佐々木 基樹
帯広畜産大学獣医解剖学分野:岐阜大学大学院連合獣医学研究科
-
佐々木 基樹
岐阜大学大学院連合獣医学研究科:帯広畜産大学獣医学科基礎獣医学講座
-
山際 大志郎
東京大学獣医解剖学教室
-
Sasaki M
Obihiro Univ. Agriculture And Veterinary Medicine Obihiro Jpn
-
山際 大志郎
Department of Veterinary Anatomy, Faculty of Agriculture, The University of Tokyo
-
高木 博隆
麻布大学獣医学部解剖学第二研究室
-
山際 大志郎
東京大学農学生命科学研究科獣医解剖学教室
-
Hayashi Yoshihiro
Department Of Veterinary Anatomy Graduate School Of Agricultural And Life Sciences The University Of
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