凝固法による培養液から細菌々体の回収 : 石油資化性細菌に関する研究(II)
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概要
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石油醗酵の場合, 特に完全には資化できないような多種混合の炭化水素を用いた場合, 細菌菌体は油滴に付着して, 水溶液との比重差が小さくあるいは水より軽くなって一般の遠心分離機で菌体を分離回収することはできなかった.著者らは重質軽油を炭素源とした場合, 92〜98%の細菌菌体を凝固(Coagulation)の方法で培養液から分離し, この凝固現象がSpan 20の存在下でpHと攪拌速度に強く依存していることを認めた.細菌の増殖過程の中での凝固に適当な時期は対数増殖期の終了直後以後, 定常期までであった.凝固に適当なpHは6〜8であった.凝固した菌体塊りは円形に近く, その大きさはそろっていた.菌体塊りの径(以下, 粒径と称す)は0.5mmより小さい場合800rpm, 2分間遠心分離で回収したが, 0.5mmより大きい場合普通のガーゼでも回収できた.一方, 完全に資化されるn-パラフィンを炭素源とする場合, n-パラフィンが全くなくなったら遠心分離法で分離できるが, 少量でもn-パラフィンが残存している状態では普通の園新分離や濾過法はやはり困難であった.著者らは, 95%以上の細菌菌体を凝固法で回収した.処理の方法としては細菌が定常期に入る1〜2時間前に培養液のpHを6〜8に調節し, 攪拌速度を培養中の200rpmから400か500rpmにあげることによって菌体は凝固してきた.しかし, 攪拌しないと凝固はおこらず, また粒径の大きさは攪拌速度によって調節できた.凝固現象について次のような実験事実から検討して見る.(1)非炭化水素(グルコース, 酢酸ソーダ, エタノールなど)醗酵液の菌体はSpan 20の添加によっても凝固しないが, 炭化水素醗酵液の場合には凝固する.(2)凝固現象が見られるのは対数増殖期の後半から定常期までの間である.しかしn-パラフィン培養液の場合, 定常期に入ってからでは凝固率も粒径も著しく小さくなるため, 凝固性に富んでいる時期は定常期に入る1,2時間前である.(3)Span 20を添加した重質軽油培養液のpHに対する挙動は添加しないn-パラフィン培養液のpHに対する挙動に似っている.すなわちpH6〜8では凝固率が最高で, pH2〜4あるいは10〜12になると減少する.(4)Tween系, Brij 35などの親水性界面活性剤は凝固効果がない.以上述べた(1)の結果から明らかなように炭化水素醗酵液中の菌体表面や菌体内, または水層中に凝固に関与する成分が存在しているのではないかと考えた.それらの成分は(2)の結果から水層中に分泌されたり, 自己分解でできたりするものよりむしろ菌体自身がもっているものではなかろうかと考えた.また(3)と(4)から考えるとこれらの凝固に関与する成分は親油性基をもつ成分のではないかと推測した.そこで著者らは菌体内脂質の凝固効果について検討した.炭化水素培養液では脂質の添加で凝固効果を示した一方, 非炭化水素培養液でも同じく凝固効果を示した.重質軽油培養液ではSpanと脂質の両方とも凝固効果を示し, pHの影響も類似していた.n-パラフィンを炭素源として培養する場合, 定常期にはいる2,3時間前pHと攪拌速度を適当に調節すると脂質を添加しなくても凝固するが, 脂質を添加する方が添加しない方より凝固率が大きく, 粒径に対する影響を見ても脂質添加の方が全般に脂質無添加の方より粒径がかなり大きいが, pHに対する挙動は両者で類似していた.また, 凝固した菌体の脂質をクロロホルム+メタノール(2 : 1)で除いた後, 菌体残渣の水懸濁液に対して脂質の添加で凝固効果を示したが, 添加しないと効果を示さなかった.以上, 述べたことから脂質は炭化水素醗酵液の菌体の凝固現象に対して重要な役割を果たしていることを示した.また, ほかの炭化水素資化性菌の炭化水素培養液やグルコース, 酢酸ソーダ培養液に対して凝固への脂質添加効果が認められた.炭化水素非資化性菌の培養液や炭化水素培養地の菌体懸濁液に対して凝固効果が認められなかった.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1976-04-25
著者
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