義歯の咬合不調和が原因と思われる陳旧性両側顎関節脱臼の1症例

概要

論文の詳細を見る
本症例は, 56歳女性で, 4年前より〓の義歯使用していたが・約1カ月前から前歯部のopen biteが強くなり, 咀嚼困難を訴え, 来院した。X線写真にて両側の顎関節脱臼を認め, 筋弛緩剤の投与と顎関節部への局所浸潤麻酔を施し, 徒手的に整復した。患者はこれ迄に脱臼の既往もなく, 契機となる様な外傷や過大開口もなかった。また当時, 歯科治療やその他の医療行為は受けておらず, 医原性や薬物が原因とも考え難く, 脱臼の原因となり得る外力の作用は明らかではなかった。X線写真においても, 顎関節部の形態的な異常所見は認めなかった。しかし患者が使用してきた義歯は, 咬合高径が高く, 前後的な下顎位の設定も誤っており, さらに前臼歯部の咬合の接触が調和していないなど, 不適合の義歯であることがわかった。また, 筋電図において咬筋の活動電位が少ないなど, 咀嚼筋の機能低下が示唆された。そこで本症例は, 不適合義歯を長期間使用することにより顎運動筋などが直接的, 間接的な影響を受け, これが脱臼の原因に強く係わっていたものと考察した。
1984-08-15