小笠原諸島で採集されたスガイ属の1新種
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概要
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小笠原諸島に生息するスガイ類は,これまでLunella cinereaとして報告されてきたが(例えば平瀬・瀧, 1954;竹之内, 1986), Fukuda (1993)によって形態学的に未記載種である事が指摘されていた。しかしながら,現在までに正式に新種記載は行われてこなかった。さらに近年,個体数が激減しており,現在では絶滅寸前とされている(福田, 1996)。本研究では, 2006年6月に小笠原諸島・父島において貝類相の調査を行った際に採集する事ができた8個体と小笠原自然文化研究所の標本(CIBML2005018),国立科学博物館収蔵の標本(NSMT-Mo 963)を用い, L. cinereaとの殻および歯舌の形態比較と,ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子(658bp)の塩基配列に基づき予察的な分子系統解析を行った結果,形態学的にも遺伝的にもL. cinereaとは区別でき,新種である事を認めたので,ここに記載報告する。また,福田(1996)で述べられたように,オオベソスガイという和名(初出は岩川, 1919)の基準となった標本(NSMT-Mo 963)は小笠原産であり,八重山諸島以南のインド西太平洋に広く分布するL. cinereaは和名を失っている。しかし, L. cinereaに対する和名としてオオベソスガイが未だに使われる事も多くあり,また本種は小笠原固有種である事を踏まえ,本論文をもって小笠原固有種をオガサワラスガイ(初出は加藤, 1996), L. cinereaをオオベソスガイと呼ぶ事にする。オガサワラスガイLunella ogasawarana n. sp. (新種)の多くの形態学的特徴はオオベソスガイと類似しているが次の点から明瞭に区別される。(1)殻は常に暗褐色であり,臍孔部はオレンジ色に染まる。(2)螺肋に多数の顆粒がある。(3)真珠層の伸張部が臍孔を越えて広がる。(4)真珠層伸張部の縁が刻み目状。(5)臍孔は丸い。(6)歯舌の中歯の先端は直線的である.本種は,砂底転石帯の潮間帯上部に生息しており,昼間は岩緑の砂に埋在している。小笠原固有種であるが,近年採取例がほとんどなく絶滅に瀕していると考えられ,早急な対策が必要である。タイプ標本:ホロタイプ, 34.8×36.8mm, NSMT-Mo 73816。パラタイプ1, 13.8×15.4mm, NSMT-Mo73817,パラタイプ2, 24.8×26.7mm, NSMT-Mo73818,ほか。タイプ産地:小笠原諸島,父島,境浦。
- 2007-07-31
著者
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中野 智之
National Museum of Nature and Science
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中野 智之
国立科学博物館
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高橋 恭子
名古屋大学大学院・環境学研究科
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中野 智之
Department of Earth and Planetary Sciences, Nagoya University
-
小澤 智生
Department of Earth and Planetary Sciences, Graduate School of Science, Nagoya University
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小澤 智生
名古屋大理
-
小澤 智生
Department Of Earth And Planetary Sciences Nagoya University
-
小澤 智生
兵庫教育大学
-
小沢 智生
Department Of Geology Kyushu University
-
小澤 智生
名古屋大学・環境
-
小澤 智生
Department Of Earth And Planetary Science Nagoya University
-
高橋 恭子
Department of Earth and Planetary Sciences, Nagoya University
-
小澤 智生
Department of Earth and Planetary Sciences, Nagoya University
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