飼育下ツキノワグマにおける環境エンリッチメント効果の季節変化
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概要
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飼育下であってもクマの行動および生理学的特徴は季節と深く関わっている。そのため、環境エンリッチメントが行動におよぼす影響も季節により変化すると考えられる。そこで本研究では、春季から秋季において盛岡市動物公園で飼育されているツキノワグマ(雌3頭)に、環境エンリッチメントを行い、行動を調査した。環境エンリッチメントの効果の季節変化について検討することを目的とした。調査は、盛岡市動物公園のクマ舎の屋外運動場で行った。ツキノワグマの雌3頭を調査個体とした。クマは9時頃に運動場に出され、16時30分頃に寝室へ入れられた。運動場には岩、パーゴラやプールが配置されていた。給餌は1日に1回16時30分頃、寝室の中で与えられた。環境エンリッチメントとして、パーゴラとプールの横あるいは水を抜いたプールに樹枝を設置した。また、調査期間中、運動場内の10ヵ所にクリを3粒ずつ隠した。隠す場所は毎日変化させた。直接観察により行動を1分毎に記録した。エンリッチメント開始直後、1週間後、2週間後および1ヵ月後に行動を調査した。エンリッチメント処理により、春季には個体遊戯行動が、夏季には探査行動と個体遊戯行動が、秋季には探査行動がそれぞれ増加した(P<0.05)。また、摂取行動は、春季では開始前と比べ僅かに増加し、夏季では逆に減少しているのに対し、秋季では3倍以上に増加した。よって、エンリッチメントとして行った餌隠しの影響がいちばん大きく現れだのは秋季と考えられた。以上より、春季から夏季には、個体遊戯行動といった摂食にかかわらない行動を促す環境エンリッチメントが、越冬に備え摂食要求が強まる秋季には、摂食にかかわる行動を促す環境エンリッチメントが効果的であることが示唆された。
- 日本家畜管理学会の論文
- 2008-06-25
著者
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出口 善隆
岩手大学農学部
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辻本 恒徳
盛岡市動物公園
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山本 彩
山梨県酪農試験場
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丸山 正樹
盛岡市動物公園公社
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出口 善隆
岩手大農
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岩瀬 孝司
盛岡市動物公園
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小野 康
盛岡市動物公園
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出口 善隆
東北大学大学院農学研究科陸圏修復生態学
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徳永 未来
岩手大学農学部
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木村 憲司
盛岡市動物公園公社
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出口 善隆
岩手大学大学院連合農学研究科
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出口 善隆
岩手大学農学部動物科学課程
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