不溶化Glucoamylase反応系における粒子内拡散
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概要
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イオン結合法不溶化酵素は調製が容易でかつ再生が可能であるという特徴を有している. しかし, 担体との結合が弱く酵素のうける修飾の程度が小さいと考えられるイオン結合法の場合においても, 不溶化による活性の低下が数多く報告されている. ここでは, Amberlite樹脂を担体とする不溶化glucoamylaseの活性低下の要因を明らかにすべく以下の検討を行なった.不溶化glucoamylase (以下IGAと略記) の調製はFig. 2に示す方法によった. 担体として用いた樹脂はクロマトグラフィー用のAmberliteで, 粒度の異なるType I, Type IIおよびType IIIの三種を採用した. 乾燥状態での粒度は, Type Iが100〜200 mesh, Type IIが200〜400 mesh, Type IIIは最も小さくて400〜600 meshである. 未吸着酵素の活性を経時的に測定する方法で不溶化の経過を調べた (Fig. 3).粒径の小さいType IIIで吸着速度が最大となり, Type II, Type Iと粒度が大きくなるにしたがって吸着速度は順次低下した.粒径の異なる三種の不溶化glucoamylase (IGA Type I, IGA Type IIおよびIGA Type III) を用い, maltose基質に対する活性を比較したところ (Fig. 4), 単位担体量あたり結合酵素量がほぼ等しいにもかかわらず, その触媒活性は明らかに異なっていた. 分子量の大きい基質としてamyloseを用いた場合も, maltoseのときと同様に, 粒径による活性の差が明確に示された (Fig. 5). さらに, 最大の粒径をもつIGA Type Iによる反応経過にlagが認められた. 以上の結果から, IGAを触媒とする反応系においても, 拡散過程が関与しているものと考えた.撹拌強度を変化させて反応を行い, その影響が認められない範囲を標準反応条件としてあらかじめ定めたので, 外部拡散抵抗は無視できる. そこで粒子内拡散抵抗を存否を検討した. Maltose加水分解反応に対するみかけの活性エネルギー (Eapp) を求めたところ, 不溶化によって減少した. さらに, IGAの粒径が大きくなるにしたがって, Eappは順次低下する傾向を示した (Fig. 6,Table 1). このような挙動は粒子内拡散の存在を前提として提出されたGuptaらの結果と合致する.Michaelis-Menten型の反応速度式に伴う不溶化酵素反応の有効係数は外部基質濃度の関数になる (Appendix参照). 外部基質濃度が3mMおよび100mMの場合について, 三種のIGAに対する有効係数を計算し, 三種の中では最も粒径が小さくそれゆえほとんど拡散の影響をうけていないIGA Type IIIの有効係数 (活性は有効係数に比例する) を基準とする相対活性で比較した (Table 2). 低基質濃度では三種の間で活性の大きな差が認められたが, 基質濃度が高くなるとその差が減少した. 同じ二つの気質濃度でIGAの活性を実測したところ, 外部濃度の変化に対す挙動は, 先の計算から予測される結果とよく一致した. 有効係数は担体粒子内での拡散抵抗を前提として計算されたものであるから, Table 2に示した結果からも, 本反応系に粒子内拡散が関与していることが示された.イオン結合法では先に示した吸着経過から, 酵素は最初に担体の外表面を満し, 順次内部に結合してゆくと考えられる. したがって, 吸着時間を短縮すると担体の表面近傍にのみ活性が偏在することになる. この状態では粒子内拡散によって総括の反応速度が影響されることなく, したがって単位結合酵素量あたりの活性 (specific activity) は高くなるはずである. このような考えのもとに, Amberlite CG-50 Type Iを担体として結合酵素量の異なる不溶化glucoamylaseを調製した. 吸着時間は1,5および24時間とし, 調製後ただちに活性を測定した. 単位担体あたりの結合酵素量が少ないときほど, すなわち, 酵素が担体表面に局在していると考えられる場合ほど高いspecific activityを示した (Fig. 7).以上の諸結果から明らかなように, Amberlite樹脂を担体とする本不溶化酵素系における活性低下の一要因として, 粒子内拡散が関与していることを示した.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1973-08-25
著者
-
三浦 喜温
大阪大学薬学部
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岡崎 光雄
信大繊応生
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岡崎 光雄
大阪大学薬学部
-
宮本 和久
大阪大学薬学部環境生物薬学専攻環境保健化学講座
-
宮本 和久
大阪大学薬学部環境生物薬学
-
藤井 とも子
大阪大学薬学部製薬化学科
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玉置 信子
大阪大学薬学部製薬化学科
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