クマスギの体細胞突然変異の誘起におよぼすガンマー線の照射時期, せん定および内部摘芽の効果
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概要
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スギのさし木品種, クマスギの3年生苗をもちい, 体細胞突然変異の誘起におよぼすガンマー線の照射時期, せん定および内部摘芽の効果を調査した。1965年, 直径30cmの素焼鉢に植えた10〜11本の苗木に次のような照射時期とせん定処理(照射終了直後)の各組合せごとに96.7R/day(20h)で580Rを照射した。(1)照射時期(a)6月, (b)8月, (c)10月(2)せん定処理(a)無せん定, (b)弱せん定, (c)強せん定 体細胞突然変異の検出は1966年の冬まで続けた。その変異は次の5種類に分類した。(1)葉緑素変異, (2)ワックスレス変異(緑色組織のワックス被覆が減少していると思われる), (3)針葉形態変異, (4)冬期間の色に関する変異, (5)奇形。1966年の秋, ガンマー線照射後発生したと思われる枝数を調査した。枝あたりの最高の体細胞突然変異率2.13%は, 8月照射で得られ, 10月照射の変異率は低かった。照射終了直後の強せん定は体細胞突然変異の誘起に不利であった。体細胞突然変異の種類と頻度をみると, 8月照射においては葉緑素突然変異の発生率は比較的低く, ワックス被覆および針葉形態に関する変異は, 他の照射時期よりも頻度が高かった。さらに, 苗の樹冠上部の体細胞突然変異率は, 樹冠下部のそれよりも常に高かった。一般に, クマスギの体細胞突然変異のセクターは大きく, この試験でも葉緑素変異の約半数は完全な変異であった。しかし, ワックスレスや形態変異の大部分は, キメラ状ではなく完全な変異であった。この体細胞突然変異のセクターが大きいことは, スギの生長点分裂組織の構造が単純なことおよび山川・関口等が名付けた放射線による内部摘芽によるものと考えられる。第二試験では素焼鉢に植えた9本の苗木に100R/day(20h)でそれぞれ300,600および900Rを照射した。照射は同じ日に終わり, 顕微鏡観察用の永久標本を作るため, 照射後40日まで一日おきに各照射線量あたり10個の生長点を採集した。標本はクラフIIIまたはアレン氏固定液で固定し, サフラニンとファーストグリーンまたはフォイルゲン反応で染色した。スギの茎端分裂組織は被子植物のそれより単純であり, チュニカー層とコープスからなると考えられる。300R程度の照射でも, クマスギは照射1週間以内に茎端分裂組織の細胞障害があらわれはじめる。照射後7〜10日の間に生長点の始原細胞のドームの中央部が沈下し, 平らな形になるものもある。照射線量が高いと障害もひどくなり, 現存の茎端分裂組織が破壊される-内部摘芽-そして照射線量に比例して回復の始まる時期も遅れる。新しい茎端分裂組織は活性化された小数の細胞から再生されると考えられるが, 低線量照射では茎端始原細胞上部区域から, また, 高線量照射では腋生分裂組織区域から修復が始まる。こうして, スギでは完全な体細胞突然変異または, 枝変りが高頻度で生ずるものと思われる。
- 日本森林学会の論文
- 1971-06-25
著者
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