土壌水分条件の違いが当年生苗の蒸散速度および木部圧ポテンシャルに与える影響(リュウキュウマツの生長に関する研究 (IV))(林学科)
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概要
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リュウキュウマツ当年生(6箇月)苗を用いて, 土壌水分条件と苗木の蒸散速度および根際のXSPとの関係を10∿12月の3ケ月間検討した。本実験期間は沖縄において, 比較的降雨の偏りが多い時期であるが^<12)>, 気温はまだ高く, 生育活動は活発で苗木にとって, 水分欠乏のおこり易い期間である。また, 本樹種の播種時期は本実験より早いので^<16)>, 現実的には秋季の水分欠乏時の苗令はこれより少し大である。苗木の蒸散速度とXSPは大気の環境条件, 植物体内の含水量, 土壌からの給水量およびこれらの内部, 相互間の通導抵抗によって左右される。即ち, 土壌-植物-大気連続体(SPAC)の水の化学ポテンシャルの傾度に従って左右されている^<3,8)>。従って, 一般的には日中, 蒸散量が増加するとXSPは低下するものとみられるが, 両者の関係には種々のパターンがみられることを本実験は示している。これらの蒸散とXSPとの関係はSPAC説およびこれまでの報告^<2,4,5,6,9,10)>からみて, 充分説明できるものである。XSPとLWP(leaf water potential)はほぼ近い性質を示すとされているが^<2)>, 水ポテンシャルの測定部位が小さい程, 蒸散が水ポテンシャルに与える影響は大きく, LWPは環境条件の変化に鋭敏に反応する。従って, XSPおよびLWPを長期間の全体的な蒸散量の動きをみるパラメーターとして使用するのは不適である。苗木の蒸散量に大きい作用をなす土壌水分について, 佐藤^<11)>のスギ, ヒノキ, アカマツの当年生苗での実験では土壌水分がpF3.7附近になると蒸散量が急激に減りはじめ, 永久萎凋点あたりまで乾燥すると蒸散量はきわめて少なくなり, ほとんど変化しなくなるとしている。また, 大山^<7)>はリュウキュウマツの6∿7箇月苗の実験では土壌水のpF値3.2附近から蒸散量は急に低下するとし, 山盛^<15,16)>はリュウキュウマツ2年生苗の実験で蒸散量およびNWP(needle water potential=LWP)の急変点は土壌水分pF2.7∿3.3間にあるとしている。本実験では, 土壌水分がpF3.8より乾燥した状態になると生育の活発な苗木の蒸散量はあまり変化しなくなる。また, pF2.7とpF3.8間で蒸散量の差が大きいが, pF3.2では蒸散およびXSPを限定する要因となっていないこと, pF3.8でXSPが鋭敏な反応をしていることからみて, 苗木の水分生理に大きな作用をなす土壌水分のpF値は, むしろpF3.8附近にあるものと推定される。土壌水分pF1.7ではリュウキュウマツには過湿ではないかとの報告^<14)>もあるが, 本実験では土壌水分pF1.7区で最大の生長をなし, 蒸散およびXSPの反応も鋭敏であった。山盛^<14,16)>の報告によると, リュウキュウマツ稚苗は土壌水分pF1.7では過湿で, pF2.7∿3.3で蒸散およびNWPの急変点があるとしていることから, 稚苗は土壌水分の狭い範囲でしか生育できないことになる。しかし, 本実験では, これより広い範囲の土壌水分条件(pF1.7∿3.8)で生育できることが推定された。次に, リュウキュウマツ当年生苗でハードニング効果がみられた。本実験では一定の前処理をしたが, 山盛^<14)>の実験結果からみると, pF0∿4.0のくり返しの処理区で蒸散量が大きいことから, ハードニングのくり返しがその効果は大きいものと考えられる。また, ある期間, 水ストレスを与えた苗木ではそれが弱い程, 回復は早いが, pF4.0で2箇月間管理した苗木でも1日後にXSPは回復した。異なる土壌水分で育てた苗木を自然乾燥させて水ストレスを与えた場合, 土壌水分のpF値が低い土壌で育てた苗木の方が回復は早かった。本実験ではリュウキュウマツの水分生理に関するこれまでの報告とは異なる結果となった。これは実験に使用した培土が異なる(大山^<7)>は第三紀層泥灰岩の風化土壌, 山盛^<14)>は赤色土(国頭礫層)3 : 石灰質砂(海岸砂)1の混合, 本実験はバーミキュライト)とその乾燥および吸水のみちすじが異なるので^<1)>, これが原因の一つだと考えられる。従って, リュウキュウマツ苗木の水分生理に関する分野では土壌の特性および測定技術を考慮して更に検討する必要があるものと考えられる。
- 琉球大学の論文
- 1980-11-29
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