声帯音源波形による声帯振動の観測とその臨床的応用
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概要
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1. 目的:喉頭に器質的疾患(声帯癌,声帯ポリープ,声帯結節,乳頭腫など)や機能的疾患(心因性音声障害など)が生ずると発声の際,音声障害を伴なうことはよく知られている.このような音声障害の原因は声門閉鎖不全,周期性の乱れなど主として声帯振動の異常にあることが多い.スペクトログラフなど音声分析による診断法が試みられているが確立された方法がないのが現状である.最近,デイジタル計算機の応用分野の一つとして音声分析の研究が盛んになり,われわれは計算機を使用して診療の一環として必要に応じた発声時の声帯機能を観測する新しい音声分析法の研究を行なつた.2. 実験法:われわれはディジタルフィルタを用いて声道共鳴系の逆回路を構成し,音声より声道共鳴系の伝達特性や口唇よりの放射特性を除去し,声帯音源波形(声門体積流波形)を求め,その解析結果と音声障害の種類,程度や治療効果との対応関係を調べた.本逆フィルタ方式の利点は患者の発声になんらの拘束や苦痛を与えないこと,および声道の伝達特性を近似的に除去することで,音声そのものの音響分析の場合よりもより根元に近い音源信号の段階で分析が行なわれることにある.3. 結果:種々喉頭疾患患者45名の音声より抽出した声帯音源波形の解析結果を間接喉頭鏡所見や従来の音声検査成績と対応させて比較,検討した.喉頭鏡所見で声門閉鎖が妨げられるほど大なるポリープや反回神経麻痺で片側声帯が内転しない症例では,声帯音源波形上に声門閉鎖期が存在しないか,又は定めることが困難であつた。又,声帯癌,ポリープ様声帯,反回神経麻痺の声帯音源波形は正常な型とは大いに異なり,一周期ごとのピッチや波形も著しく,くずれていた.これらの症例では声域,話声位,呼気乱費係数等の音声検査成績と声帯音源波形の解析結果とはよく一致した.一方,ポリープや声帯結節の比較的軽度な症例では自覚症状もあり,喉頭鏡所見,音声検査成績などにも一部異常が認められたものの,抽出した声帯音源波形は,ほぼ正常に近い型となつた.われわれは音源波形のピッチのゆらぎや音源スペクトル包絡の型(特にその高域成分の減衰),雑音成分などが嗄声の分類記述上,主要な要素であると考えており,それらは嗄声を直接分析するよりも,はるかに容易に音源波形から求めることができ,今後これらの要素をあわせて分析,検討することにより,比較的軽度な音声障害も容易に取り扱えるものと考えている.4. 結論:音声より抽出された声帯音源波形の解析により声門開閉速度の緩急,声門閉鎖時間の長短および有無,ピッチの乱れなど声帯振動一周期中の詳細な動きが観測できる.種々喉頭疾患患者の解析結果にはそれぞれの音声障害による異常な声帯振動がかなり明確に表われており嗄声の診断に有効な資料になりえる.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文
著者
-
鈴木 安恒
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室
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斎藤 成司
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室
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小野 博
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科教室
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田村 宏之
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科教室
-
北原 哲
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科教室
-
中津井 護
郵政省電波研究所音声研究室
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鈴木 安恒
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科教室
-
斎藤 成司
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科
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北原 哲
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室
-
鈴木 安恒
慶応義塾大学医学部教授
-
小野 博
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室
-
北原 哲
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科
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