木曽ヒノキ天然林の保続計画に関する研究 : 新しい視点からみた神宮備林の法正状態
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本論文は,かつて,御料林が伊勢神宮の式年遷宮に必要なヒノキ材を保続的に供給するためにたてた計画の分析を通じて森林の保続計画のあり方を研究したものである。1889年に木曽ヒノキ林が御料林の所管になって以来,御料林当局は20年ごとに行われる式年遷宮に必要なヒノキ材を保続的に供給することを重大な問題と考え,この目的のため1906年に神宮備林を設定した。当時,御料林の施業担当の責任者であった倉田吉男氏はこの問題を理論的に研究し,1939年にその成果を「神宮備林ノ法正状態ニ関スル研究」として公表した。筆者らは,この問題は森林管理のあり方を考える典型的な事例であると考え,倉田の研究を新しい視点に立って分析した。倉田の方法はまず20年ごとに必要なヒノキ材を安全確実に保続生産するのに必要な法正蓄積を決定し,この法正蓄積を包蔵する森林面積をもって神宮備林とすることであった。その結果,神宮備林の面積は4404.7haとなった。倉田の方法にはいくつかの問題点があった。その主要な問題点は次の二点であった。1)現在の約300年生のヒノキ天然林が,徳川時代に行われた択伐林施業によってできあがったものと誤認したこと。2)同じ直径級の林木は同じ成長速度を持つと仮定し,枯損率を直径の大きさとは無関係に5%と固定して,これに基づいて保続に必要なヒノキ立木本数を計算したこと。筆者らは,これらの点を修正し,彼が用いた資料に新しい資料を加え再計算を行った。すなわち,作業法として強度の抜き切りによる漸伐方式を採用し,漸伐の結果更新した下木が利用径級に達するまで,上木の保続収穫を図るという材積配分法によって式年遷宮に必要なヒノキ材を保続的に供給する森林面積を求めた。また,新たな計算手法として次の三点を用いた。第一点は,天然林の直径分布にワイブル分布を適用したこと。第二点は,樹幹形を相対幹曲線によって表現したこと。第三点は,直径の成長速度が確率分布として記述されることを前提とし,直径遷移行列を用いて直径成長を計算したことである。こうして必要な森林面積を求めた結果,倉田の計算結果よりも20%多い5520haとなった。その原因は双方の採用した直径成長速度の相違にあることがわかった。このような方法は天然林の保続計画の策定に有効であると筆者らは考えている。The purpose of this paper is to study a sustained yield planning of natural forests through analysis of the planning method which was established to realize the sustained yield of Hinoki timbers by the Imperial forest authorities. Since Kiso-Hinoki forests in Nagano prefecture belonged to the Imperial forest in 1889, the authorities had taken it as one of the most important management objectives to sustain precious Kiso-Hinoki timbers for the reconstruction of Ise Shrine every twenty years which is sacred to the Imperial Family's divine origin; and for this purpose the authorities established the reserved forests in 1906.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学農学部林学科,Depertment of Forestry, Faculty of Agriculture, University of Tokyoの論文
著者
関連論文
- 多変量解析法による天然林の林型区分(I) : 択伐林分の場合
- 千葉演習林相の沢スギ品種試験地50年の生長経過
- 森林に行く頻度と主観的健康状態に関する横断的研究
- パイプモデル理論と相対幹曲線を用いた広葉樹全木材積表の調製 : 東京大学千葉演習林を事例として
- 東京大学北海道演習林ヨーロッパトウヒ材積表の調製 : 材積表調製システムの作成
- スギ二段林下木の成長 : 低密度の上木による庇陰が下木の成長に与える影響
- 千葉演習林におけるスギ高齢林分の間伐方法に関する検討
- 森林管理システムに関する研究(I) : 樹幹情報の補完システムの調製
- 森林施業計画策定システムの研究 : 短期計画の策定について
- GISを利用した森林機能による類型区分
- 優良広葉樹の択伐施業 : 天然林の新しい経理方式
- 木曽ヒノキ天然林の保続計画に関する研究 : 新しい視点からみた神宮備林の法正状態
- 線型モデルによる収穫予定法の研究(II) : 東京大学千葉演習林における林道開設順序の決定
- 民有林の施業計画策定に関する研究(III) : 人工林の法正齢級配置への収束の早さについて
- 民有林の施業計画策定に関する研究(II) : 森林の法正状態に関する考察
- 相対幹曲線式を用いた材積表の調製
- 民有林の施業計画策定に関する研究(I) : 地域森林計画における人工林の伐採量および造林面積の決定
- スギ林分収穫表調製法のシステム化に関する研究 : 東京大学千葉演習林スギ林を対象として
- 桂竹林に関する研究(I) : 竹林の施業モデル
- WZP.における測定不能面によるBias.
- 森林経営学, L. S. ディビス/K. N. ジョンソン著, 上巻野村 勇監修, 野村 勇/杉村 聡共訳, 378pp, 4,500円, 下巻野村 勇訳, 739pp, 4,300円, 日本林業調査会, 東京, 1994年
- 6.スウェーデンとフィンランドの森林資源(1983年度林業統計研究会夏季セミナー)(世界の森林資源)
- 線型モデルによる収穫予定法の研究(I) : 0-1計画法の適用
- III.線型計画による収穫予定法(第6回林業統計研究会シンポジウム)
- 天然林開発計画に対するLPの一適用法(II)
- 天然林開発計画に対するLPの一適用法(I)
- 東京大学秩父演習林の樹幹解析資料による樹幹形の分析
- 1031 伝統的木造建築に用いる柿葺き材の物性分析と改質処理による持続的保全技法に関する研究 : その1 こけら材の物性分析(材料・施工)
- 1032 伝統的木造建築に用いる柿葺き材の物性分析と改質処理による持続的保全技法に関する研究 : その2 こけら台の屋外暴露試験の概要(材料・施工)
- 古材の劣化調査 : 福勝寺本堂(重要文化財)垂木用材の食害と材質
- 森林作業法 : 東京大学北海道演習林の経営実験
- 4A-1 屋外暴露した改質こけら葺き屋根の物理的変状の評価(4A 色彩応用,口頭発表,第43回全国大会要旨集)
- 大雄山最乗寺寺有林内に存在するスギ複層林の林分構造と上木の形質
- 都市近郊里山における市民の管理にもとづく木質バイオマス発生量の推定
- 屋外暴露した改質こけら葺き屋根の物理的変状の評価
- 森林計画学会誌の創刊にあたって
- 2030 伝統的木造建築に用いられるこけら材の高度維持・保存方法に関する研究 : その2 こけら板製材に関する事例報告(伝統建築)
- 2255 伝統的木造建築に用いられるこけら材の高度維持・保存方法に関する研究 : その6 こけら材の1年間の屋外暴露試験結果(伝統建築)
- 2357 茅勾配と改質処理を施した茅部材の含水特性とカビ劣化性状の評価(伝統建築)
- 2256 茅勾配を変化させた伝統的茅葺屋根の内部温湿度分布と乾燥状態の評価(伝統建築)
- 2031 伝統的木造建築に用いられるこけら材の高度維持・保存技法に関する研究 : その3 こけら材の表層性状分析(伝統建築)
- 2137 伝統的木造建築に用いられるこけら材の高度維持・保存方法に関する研究 : その5 こけら材の屋外暴露試験による初期変化(伝統建築)
- 千葉県柏市の森林における放射能汚染の実態
- 2032 伝統的木造建築に用いられるこけら材の高度維持・保存方法に関する研究 : その4 こけら板の基礎力学特性(伝統建築)
- 吸収源対策研究会編, 温暖化対策交渉と森林, 全国林業改良普及協会, 2003年2月, 203頁, 923円+税
- 島崎洋路著, 山造り承ります, 川辺書林, 一九九九年十二月、二三七頁, 一、六五〇円
- 2029 伝統的木造建築に用いられるこけら材の高度維持・保存技法に関する研究 : その1 各種こけら材の葺替実態とライフサイクルコスト(伝統建築)
- 1055 屋外暴露した改質こけら葺き材の初期劣化性状の評価(材料・施工)