森林景観において境界効果はどこまで及んでいるのか?(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
針葉樹人工林の公益的機能を重視する立場から、自然林と人工林の境界域において人工林側への境界効果がどれくらいの距離に及んでいるのか、本特集の論文の成果を元に整理し、今後の課題を検討した。既往の研究事例から種子の散布距離を調べたところ、風散布種子、動物被食散布種子は、母樹または森林の境界から100m以上離れても散布されていた。貯食散布は散布者によって運搬距離は異なり、ネズミ類は概ね30m以内、リスは50m以上堅果類を運搬して地面に埋めていた。カケスは運搬能力が高く、250m程度堅果類を運搬していた。種子は広い範囲に散布され、人工林にも散布されているが、植物の定着には様々な物理的、生物的な境界効果が働いている。植物の定着には菌根菌や病原菌の影響が大きい。落葉広葉樹林とスギ林の境界域では外生菌根菌がスギ林側に10m程度しか分布していなかった。スギはアーバスキュラー菌根と共生関係にあるが、スギ林内では同菌根菌と共生関係にある広葉樹の生存率や成長がよいことがわかった。このような、菌類や食植者との生物相互作用を解明し、人工林に定着する植物にとっての正および負の境界効果を解明する必要がある。境界効果の大きさや種類は時間とともに変化し、特に境界が発生した直後(皆伐直後)と植生が回復する初期段階では物理的、生物的境界効果が変化していると考えられる。地形が急峻な日本においては地形のバイアスがかかり、境界効果を純粋に評価することが難しいため、試験の設定には注意する必要がある。冷温帯の構成樹種は風散布種子が多く、照葉樹林は動物被食散布種子が多い。また、西日本と東日本では人工林と自然林の大きさや比率、景観構造が異なる。人工林の公益的機能回復を図る場合は、それぞれの景観構造に合った処置を行うべきである。我が国において、人工林側の生態プロセスや境界効果は未解明な部分が多い。長期的なモニタリング体制をつくり研究者同士の情報交換を続けていくことが必要である。
- 2013-07-30
著者
関連論文
- 広葉樹林化に科学的根拠はあるのか? : 温帯林の種多様性維持メカニズムに照らして(広葉樹林への誘導の可能性)
- 針葉樹人工林の小面積皆伐による異齢林施業が下層植生の種多様性およびその構造に及ぼす影響
- 急傾斜地の照葉樹二次林における森林性ネズミによる堅果の散布
- スギ人工林の下層植生および伐採後の森林再生に及ぼす隣接照葉樹林の林縁効果
- The role of different sources of tree regeneration in the initial stages of natural forest recovery after logging of conifer plantation in a warm-temperate region
- Effects of topography and management history on natural forest recovery in abandoned forest after clear-cutting in Miyazaki, Japan
- 全国大学演習林における渓流水質
- 広葉樹林化に科学的根拠はあるのか? : 温帯林の種多様性維持メカニズムに照らして
- ブナ天然林におけるギャップ周辺の光環境とチマキザサの分布
- 栗駒山ブナ原生林の下層に優占する低木4種の7年間の個体群動態
- チマキザサ(Sasa palmata)はなぜ暗い林床で優占できるのか? : 生理的統合の検証
- クローナル植物の生理的統合 : チマキザサの資源獲得戦略(クローナル植物の適応戦略)
- 冷温帯落葉広葉樹林における地形と樹木種の分布パターンとの関係(投稿論文, 研究報告)
- 下層植生の違いが野ネズミのクリ種子散布に与える影響
- 広葉樹林に隣接するスギ人工林への広葉樹の進入過程 : 林縁からの距離と間伐の影響
- 遺伝子組換え植物隔離圃場近隣の木本植物リスト
- 遺伝子組換え植物隔離圃場近隣の草本植物リスト
- ブナ林の分断化がブナ実生の遺伝的多様性に及ぼす影響
- 針葉樹人工林におけるアカメガシワの種子散布者としての鳥類
- 水散布によるサワグルミ種子の移動パターンと漂着場所特性
- 冷温帯性落葉広葉樹の種子発芽に及ぼす光質と変温の影響(I.研究報告)
- 河畔性ヤナギ科樹木の種子散布における綿毛の定着適地検出機能(投稿論文, 研究報告)
- オニグルミ自然林での3年間にわたる開花特性
- イヌコリヤナギにおける雌雄間の繁殖投資量の違いと繁殖コスト補償機構
- 雌雄異株性樹木オノエヤナギにおけるハビタットと資源獲得様式の性差
- 同種成木の分布に対応したブナ種子の空間分布の変化
- 落葉広葉樹クリの送受粉システム--雌花上の花粉組成と母樹による花粉選択
- 発芽生物学 : 種子発芽の生理・生態・分子機構
- Janzen-Connellモデルの成立要因の検討(菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性)
- 菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性 : 要点と展望(菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性)
- 物質分配から見た成長と生存のトレードオフモデル(菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性)
- チマキザサの現存量および成長特性のギャップから林内にかけての変化
- ヒノキ・ツガ天然生林における下層植生の葉面積推定
- 棚田跡に植栽したスギ人工林の林床植生
- 造林後5年間の下刈り省略がヒノキ苗の成長に与える影響
- 暖温帯人工林における果実食鳥類群集の季節変動と先駆性樹種の果実熟期の対応関係
- ヒノキ・ツガ天然林内の実生の生残
- 四万十川流域の暖温帯上部天然林におけるリターフォール量の季節変化
- クロバイの更新と生育特性
- アカガシの開花結実と堅果の発達過程における生残
- 密植したタイワンフウ若齢林分の構造
- ヤマハゼRhus sylvestris果実の鳥類による被食過程
- 四国の暖温帯の里山環境におけるカラスザンショウの種子の散布者
- 先駆性樹木7種の開花結実フェノロジーと5年間の結実年変動
- 鳥類によるタラノキ果実の被食と種子散布
- 鳥類による種子散布が針葉樹人工林伐採跡地の植生回復に果たす役割
- インゲンマメ(Phaseolus vulgaris L.)の成長に対する支柱の効果およびつる性とつるなし性品種の成長比較
- スギ植栽木の成長と下刈り対象木の競合状態との関係
- テーマ別セッション「抜き伐りによる人工林への広葉樹の導入は可能か?」
- 森林景観において境界効果はどこまで及んでいるのか?(森林の"境目"の生態的プロセスを探る)
- 照葉樹二次林に隣接する伐採地における6年間の種子散布(森林の"境目"の生態的プロセスを探る)
- 平成23年1月の新燃岳噴火による森林被害(北から南から,Information)
- 13-4 広葉樹の導入を目的とした間伐がスギ人工林のO層及びA層上部の土壌特性に及ぼす影響 : 宮城県大崎市鳴子温泉尚武沢地区の事例(13.土壌生成・分類,2012年度鳥取大会)
- 森林の"境目"の生態学的プロセスを探る : 趣旨説明(森林の"境目"の生態的プロセスを探る)