ブナ林の分断化がブナ実生の遺伝的多様性に及ぼす影響
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概要
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ブナ天然林では戦後の拡大造林により大規模な伐採が行われ,もともとの林が細い帯状の林分(保残帯)としてわずかな面積で残されていることが多い。このようなブナ保残帯では,本来の広範囲な遺伝子流動が制限され,次世代の更新がうまく行われていない可能性が危惧される。本研究では,ブナ林の分断化が次世代に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,保残帯に生存する実生個体群の遺伝的多様性を調査した。栗駒山南部に位置する幅50mのブナ保残帯に実生調査区(35m×30m)を計3つ(保残帯区),保残帯から2.5km程離れたブナ天然林内に実生調査区を1つ(対照区)設け,実生調査区内に生存する10年生以下の実生及び,実生調査区を中心とする成木調査区内(140m×130m)に分布する成木個体についてサンプリングを行なった。計1123個体の葉片から1115個体についてDNAを抽出し,その内1110個体について8つのマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を決定し,集団遺伝学的な解析を行なった。その結果保残帯区と対照区の実生間で,遺伝的多様性の指標に有意な差はなかった。つまり,保残帯区においても次世代の遺伝的多様性は維持されていることが明らかとなった。しかし,保残帯区と対照区における実生の個体数は大きく異なっており,特に保残帯区の当年生及び1年生実生の個体数は対照区の1割にも満たなかった。以上のことから,伐採によるブナ林の分断化は,充実率や種子生産数,または実生段階における生存率に影響を及ぼしているのではないかと考えられた。
- 2005-12-27
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