植物rbcL遺伝子データベースの構築と植食性動物の食性解析への適用(<特集>エンドユーザからみたDNAバーコーディング)
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概要
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植食性動物の食性解析は、肉眼や顕微鏡下の観察による消化管や糞の内容物分析が一般的であるが、咀嚼や消化で形状が大きく変化するため、餌種の判別は非常に困難である。そこで、糞内容物のDNA分析から餌植物を同定・推定する方法について検討を行った。まず、亜高山帯から山地帯にかけて生育している植物700種を採集し、rbcL遺伝子の一部領域(262 bp)の塩基配列を決定し、DNAデータベースを作成した。DNA配列の比較から、364種の同定と112種の近縁種の推定が可能であることが示された。このデータベースを用い、ノウサギ糞のDNAからrbcL遺伝子の解析領域をPCRで増幅し、餌植物の推定を試みた。検出されたDNAはすべてデータベース内のDNAと一致し、植物種を推定することができた。同様に、カモシカやヤマドリ、バッタの糞から抽出したDNAからも植物種を推定することができたことから、本方法は植物食の動物の糞から針植物推定に汎用的に利用できると考えられた。構築したrbcL遺伝子のデータベースは糞DNAによる食性解析を目的としたため、解析領域の短いDNA配列だけでは種の分類や同定をする上ではやや解像度が劣っていた。近年、DNA配列を用いた生物種の同定に関して、DNAバーコーディングプロジェクトが進められており、植物では葉緑体DNAのtrnH-psbAスペーサー領域が候補の一つとして提案されている。そこで、本研究で収集した植物を用いて、trnH-psbAについても塩基配列を決定し、検討を行った。国内に生育している植物816種についてtrnH-psbAの配列を決定し、比較したところ、約8割の641種は単独の配列として識別でき、rbcLと比べより種判定の解像度が高いことが確認できた。しかし、解析領域の長さは種によって大きく異なり、10倍以上の差が認められること、難読配列があること、この配列からはすべての植物種を同定することはできないことなど、DNAバーコーディングの標的として課題もあることが示された。DNAバーコーディングでは、分類学、生態学、法科学、考古学、自然教育など様々な分野での活用が期待されているが、植物ではこれらすべてを満たす理想的な配列はないため、目的や用途に応じてDNA配列を選定あるいは組み合わせていく必要があると考える。
- 2008-07-30
著者
-
島野 光司
信州大学理学部
-
松木 吏弓
(財)電力中央研究所環境科学研究所生物環境頒域
-
阿部 聖哉
(財)電力中央研究所環境科学研究所生物環境頒域
-
竹内 亨
(財)電力中央研究所環境科学研究所生物環境頒域
-
梨本 真
(財)電力中央研究所環境科学研究所生物環境頒域
-
島野 光司
千葉大学園芸学部
-
島野 光司
横浜国大環境研
-
島野 光司
信州大学理学部物質循環学科
-
阿部 聖哉
電力中研 我孫子研
-
阿部 聖哉
(財)電力中央研究所
-
島野 光司
(財)電力中央研究所応用生物部
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松木 吏弓
財団法人 電力中央研究所 環境科学研究所
-
梨本 真
(財)電力中央研究所我孫子研究所
-
梨本 真
(財)電力中央研究所 我孫子研究所 応用生物部
-
松木 吏弓
電力中央研究所
-
島野 光司
横浜国立大学環境科学研究センター
-
梨本 真
電力中研 我孫子研
-
Matsuki Rikyu
Central Research Institute of Electric Power Industry
-
Matsuki Rikyu
Biological Environment Sector Central Research Institute Of Electric Power Industry
-
Matsuki Rikyu
Environmental Science Research Laboratory Central Research Institute Of Electric Power Industry
-
島野 光司
(財)電力中央研究所
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