中・高校生の家庭科の保育体験学習の教育的課題に関する検討
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概要
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本研究では,家庭科の保育体験学習に関しての教育的課題を明らかにするために,送り手側の中・高校の家庭科教師と受け手側の幼稚園・保育所(園)の保育者への質問紙調査を実施した.その結果から以下のような知見を得た.(1)ふれ合い体験の実態としては高校よりも中学校の方が多く実施されており,特に職場体験の実施が盛んであり,受け手側からも生徒の意欲が高いと評価されている.(2)家庭科の保育体験学習に関しては,中学校では,送り手側の家庭科教師が学校の協力体制(時間割変更,他教科の教師の付き添い依頼等)のもとで,ある程度の学校において実施が実現できているが,高校ではカリキュラムの硬直性や家庭科教師に課せられた仕事の多さ等の問題状況から,普通高校では実施が困難であり,実施数は少ない.(3)送り手側における家庭科の保育体験学習の実施を困難にしている問題状況の主なものとして,人数の多さと保育学習時間の削減が挙げられる.人数の多さに関しては,受け手側の保育施設の規模や保育者の意識が関わっている.その他の問題点として,実施手続きの煩雑さ・生徒の幼児に関する知識の貧困さ・うまく遊べない生徒への指導の困難さも挙げられていた.(4)受け手側の保育施設では,現在の家庭科の保育体験学習の実施形態の特徴であるクラス全員が体験すること・主として一緒に遊ぶ体験であること・何もできない生徒もいることに対して,大半は肯定的に捉えている一方,どちらかというと否定的な見解を持っている保育者もいる.特に,この傾向は保育所(園)よりも幼稚園,経験年数が30年以上の保育者よりも30年未満の保育者に強いことが示された.(5)受け手側の保育者の多くは,家庭科の保育体験学習の影響として子どもたちが興奮状態になると感じていたが,擬似的な兄や姉と接する機会・子どもが別の面を表す機会となると捉えている保育者も過半数を超えていた.また,日常の保育・教育が混乱しない程度に,できるだけ受け入れていきたいという姿勢でのぞんでいることが示された.(6)送り手側の中・高校の家庭科教師から提示された家庭科の保育体験学習をめぐる問題状況の克服には,受け手側の理解と協力意識が必要不可欠であること,受け手側の保育者からも送り手側との連携の要請が提示されたことから,送り手側と受け手側の具体的な共同体制の構築が家庭科の保育体験学習の重要な教育的課題の一つであることが示唆された.以上のことから,本論で提示された課題の克服に際しては,まず,中・高校の必修教科としての家庭科のなかで取り組まれている保育体験学習は,人間の発達の学びの一環として,全ての中・高校生に幼児とふれ合う機会を与えられる教育体験であることを再確認する必要がある.そして,受け手側においては,目の前の幼児たちが成長して中・高校生となっていくプロセス,送り手側においては,目の前の中・高校生が親世代となっていくプロセスという生涯発達の視点から,保育体験学習の教育的意義を共通理解し,共同体制を構築していくことが重要だと考える.さらに,関連領域の研究者においては,多様なふれ合い体験の個々の教育的意義の理論的整備を進めた上で,送り手側と送り手側との共同体制の構築のための具体的な方策を提示していくことも必要であろう.調査にご協力いただきました千葉県高等学校家庭科教諭・千葉市立中学校家庭科教諭・千葉市幼稚園教諭・保育所(園)の保育士の方々に心から感謝申し上げます.なお,本研究は,「生涯発達の視点から中・高校生の親性準備性を育成する教育プログラムの開発(平成17・18年度科学研究費補助金基盤研究(C)課題番号17530551)」の研究成果の一部である.
- 社団法人日本家政学会の論文
- 2007-06-15
著者
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